温故知新 時代を作ったビジネス書から学ぶ(第6回)

10年先のニーズを見通した経営者、ソニー・盛田昭夫

2015.03.05 Thu連載バックナンバー

 温故知新――故き「ビジネス書」を温ねて、新しき「経営課題」を知る連載の第6回目では、ソニー創業者の1人である盛田昭夫の『MADE IN JAPAN』を取り上げます。

 

破壊的なイノベーションを次々と生み出す

 ソニーの創業は1946年に遡ります。第二次世界大戦が終わると、日本の製造業は欧米から技術移転を受けます。ソニー(当時は東京通信工業)は、米社からトランジスタの基本特許について使用許諾(ライセンス)を受け、独自技術を付加して小型のトランジスタ・ラジオの開発に成功しました。

 『イノベーションのジレンマ』で知られる経営学者のクレイトン・M・クリステンセンは、従来の真空管ラジオに対するこのトランジスタ・ラジオを「破壊的なイノベーション」と位置づけました。トランジスタ・ラジオは、携帯用ラジオというニッチ市場で一番となり、さらに開発を繰り返すことで、真空管ラジオという古い技術を駆逐しました。

 戦後から1980年代のソニーは、このような破壊的なイノベーションを次々と生み出す驚異的な企業活動をしました。ウォークマンで音楽を持ち歩き、ビデオテープレコーダー(VTR)で好きなテレビ番組をタイム・シフトで視聴するという新しいライフ・スタイルを創出したのです。

 ソニーの事業部門が新製品を創造するとき、盛田はマーケットを創造していました。盛田のマーケティングの中心は「マーケット・クリエーション(市場創造)」であり、そのために高級路線によるブランディングを行いました。盛田のマーケティングがなければ、これら先端技術による新製品群が、消費者に受け入れられることはなかったでしょう。

 今回は、盛田昭夫の自伝本『MADE IN JAPAN わが体験的国際戦略』(朝日文庫,1990[原著1986年])[以下、国際戦略]や、同『21世紀へ』(ワック,2000年)などを参照しながら、盛田のマーケティングを読み取ります。

 

今年だけ儲かれば良い、という商売はしない

 まずは盛田昭夫がどんな人物だったのか、確認しておきましょう。盛田は1921年、愛知県の造り酒屋の十五代長男として生まれ、モダンで裕福な家庭に育ちます。日曜には家族でT型フォードに乗り、真空管を使った最新式の電気式蓄音機の音に感動しながら育っていきました(国際戦略p.48, 45)。

 盛田は大学の物理学科と日本海軍で研究に従事し、井深大らと共に、ソニーの前身となる東京通信工業株式会社を創業します(1946年)。創業後は新製品の開発に取り組み、テープレコーダー、ウォークマン、トリニトロン(カラーテレビのディスプレイ)などを手掛け、後にソニー・アメリカ社長、ソニーの社長、会長、経団連副会長などを歴任しました。

 盛田が他の経営者と大きく異なるのは、その長期的視野です。盛田は「ショートサイト(短期的視野)で判断し今年だけ儲かればよい、というような商売はしない」と断言しています(21世紀p.137)。

 その長期的視野の具体的な成功事例が、ビデオテープレコーダー(VTR)のヒットです。盛田は、「カラーテレビがその頂点に達しつつあるとき、ビデオテープレコーダーはまさに、次の人びとが求める製品であるとわれわれは確信していた」ことから、欧米が商品化の可能性を検討していない時期から研究開発に取り組んでいました。(国際戦略p.508)

 この結果、日本企業は貿易摩擦を引き起こすほどにVTRの世界市場を席巻し、ビックビジネスに成長させました。盛田は「新しい技術が開発されて実用化されるまで10年、それがビックビジネスになるまでまた10年を要する」という長期ビジョンを描いていました(21世紀p.134-135)。

「マーケットをクリエイトしなければ、いかに優秀な商品でも売れない。マーケットをつくるには、自分で自分のブランドを確立しなければならない。マーケットが拡大してきたら、現地で生産を開始する」(21世紀p.135)

 盛田の時代のソニーは、こうした長期的な視野に基づき、プロジェクトごとに段階的・計画的な経営を並行させることで、破壊的イノベーションを次々と世に送り込みました。

 

「作ったものを売るのではなく、売れるものを作る」

 なぜ盛田はこのようなマーケティングを行うようになったのでしょうか。それは、過去の苦い経験が影響しています。… 続きを読む

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鈴木 健治

鈴木 健治

特許事務所ケイバリュエーション 所長 弁理士

経済産業省産構審小委員会の臨時委員、(財)知財研 知的財産の適切な活用のあり方に関する委員会委員などを歴任。著書に「知的財産権と信託」『信託法コンメンタール』(ぎょうせい)、論文に「知材重視経営を支えるツール群に関する一考察(月刊パテント)」などがある。取引先の経営者・担当者にビジネス書の書評をお届けしている。公式サイト:http://kval.jp/

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