温故知新 時代を作ったビジネス書から学ぶ(第3回)

“勤勉”こそが新しい価値を作り出す~西国立志編

2015.01.27 Tue連載バックナンバー

 温故知新――故き「ビジネス書」を温ねて、新しき「経営課題」を知る連載の第3回目では、スマイルズ著・中村正直訳の『西国立志編』を取り上げます。

 身分制の江戸時代が終わり、誰もが実力によって実業家にも官僚にもなれる明治時代が始まりました。この明治の若者たちの思考の殻を破ったのが、1874年(明治4年)に出版された『西国立志編』です。イギリスの伝記作家であるスマイルズは、本書で、身分や貧富の差によらず、勤勉な努力と忍耐が成功を生み出したと強調しました。彼はその証拠として、イギリスの偉人たちの努力の成果を本書で紹介しています。

 西国立志編は、明治・大正のビジネスパーソンに影響を与えました。本書を愛読した青年の成長が、有名作家の短編小説の題材となったほどです。西国立志編は、計画性が高く、自立して、揺るがない忍耐力をもつ明治の青年を育てました。では、どのようにして若者に影響を与えたのか、早速見ていきましょう。

 

伝記作家スマイルズと、彼の書籍に感銘を受けた中村正直

 まず、西国立志編の著者のスマイルズと、それを翻訳をした中村正直がどんな人物だったのか、確認しておきましょう。

 著者のスマイルズは、1812年12月、スコットランドに生まれました。医学を学び開業しますが、蒸気機関を発明したジョージ・スチーブンソンの伝記を始めとした著述で有名になりました。なかでも1859年に出版された『自助論 (Self Help)』は、19世紀のロングセラーとなりました。「自助」は、自らが自分を助け、自立するということです。

 翻訳した中村正直は、1832年5月東京麻布に生まれ、漢学と蘭学を学びます。彼は1866年、幕府からイギリス留学生12名を監督する取締役に任命されて渡英し、イギリスでスマイルズの『自助論』に感銘を受けます。帰国後に本書を『西国立志編』の題名で翻訳しました。「西国立志編」は、「ヨーロッパの偉人伝」といった意味です。

 今回は、中村正直の序文も現代語訳されているPHP新書の『現代語訳 西国立志編』(サミュエル・スマイルズ著、中村正直訳、金谷俊一郎現代語訳)を紹介します。

 

イギリス産業革命の秘密は「勤勉」にあり

 それでは早速西国立志編の内容を紹介していきましょう。西国立志編は次の有名なフレーズで始まります。

「「天は自ら助くる者を助く」これは、今まで人類が経験してきたすべての成功と失敗から生まれた言葉です。「自ら助く」とは、自立して他人に頼りきらないということです。この自助の精神から、人間の才知というものは生まれてきます。自助の精神を備えた人が多くなればなるほど、その国家は活気に満ち、繁栄していきます。(第一編1)」(西国立志編p.28)

 つまり、自立した者こそが成功し、他人に頼り切らない人間が多くなることで国が繁栄する、ということです。

 実際、スマイルズが活躍した当時のイギリスは、産業革命に成功した世界最強の国家です。特に、蒸気機関を動力とする鉱業、工業、鉄道、蒸気船は、他の諸国を圧倒しました。

 では、なぜイギリスでこの産業革命が成功したのでしょうか。江戸時代から急激に文明開化となり、イギリスの科学技術の進歩と大工場の発展を知った明治の若者たちは、本書で次の情報に出会い、その答えを知りました。… 続きを読む

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鈴木 健治

鈴木 健治

特許事務所ケイバリュエーション 所長 弁理士

経済産業省産構審小委員会の臨時委員、(財)知財研 知的財産の適切な活用のあり方に関する委員会委員などを歴任。著書に「知的財産権と信託」『信託法コンメンタール』(ぎょうせい)、論文に「知材重視経営を支えるツール群に関する一考察(月刊パテント)」などがある。取引先の経営者・担当者にビジネス書の書評をお届けしている。公式サイト:http://kval.jp/

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