AIでビジネスの現場を変える(第2回)

IoTの可能性を広げる、AI活用の最新事例とは

2017.01.18 Wed連載バックナンバー

 製造業をはじめとするさまざまな企業が抱える課題を解決する手法として、昨今注目を集めているのがIoTです。そのIoTにAIを活用することで成果を挙げている、化学プラントの事例やドライブレコーダーの画像解析事例などについて、NTTコミュニケーションズ技術開発部の伊藤浩二氏にお話を伺いました。

 

プラント内の約50種類のセンサーデータをAIで分析

 IoTの具体的な利用方法として期待されているものの1つに、工場やプラントにおける機器の「故障予知」や「異常検知」が挙げられます。各種センサーからネットワーク経由でデータを収集し、それを分析することで機器の故障を予知したり、あるいは異常を検知したりするというものです。

 これを実現するためには、収集したデータを適切に分析する必要がありますが、膨大なデータの分析作業を人手で行うのは現実的ではないでしょう。そこで期待されるのがAIであり、刻々とセンサーから出力されるデータをAIによって分析し、故障の予知や異常の検知ができれば、工場やプラントのオペレーションを大きく変革できる可能性が生まれます。こうしたAIの活用にチャレンジし、大きな成果を生み出したのが三井化学株式会社です。

 分析の対象となったのは、同社の化学プラント内にある反応炉に取り付けられた約50種類のセンサーが出力するデータです。製造されているのはガス製品であり、反応炉にはさまざまな原料が流れ込んでいます。それらの原料の温度や圧力、流量などといったプロセスデータを取り込み、精製されるガス製品の品質(Xガス濃度)をAIで分析します。そこで使われるAIを、NTTコミュニケーションズが開発しました。

IoT×AI事例/化学プラントの運転支援(1)

 

20分後の結果をAIで高精度に予測

 このプロジェクトの意図について、NTTコミュニケーションズの伊藤浩二氏は次のように説明します。

 「反応炉自体が高温で稼働しているため、取り付けられているセンサー自体が壊れてしまうことがありました。以前から、センサーが異常な数値を示すとアラームが鳴るようになっていましたが、その理由がセンサーの故障なのか、それともプラント自体に問題があるのかは人間が判断しなければならなかったのです。そこでAIを使って分析を行い、そこから得られた予測(推定値)と反応炉に取り付けられたガスの濃度を調べるXガス分析計の値(実測値)を比較し、センサーが故障しただけなのか、プラントに異常が生じたのかを自動的に判断できる技術を開発しました」

 反応炉に取り付けられたセンサーが故障しただけの場合、そのセンサーから出力されるデータは異常値となるため、AIによる予測(推定値)も実際とは異なる数値になります。一方、反応炉に取り付けられたXガス分析計の値(実測値)は、センサーの異常とは関係なく精製されたガス濃度の値を示します。この2つの値を比較し、両者に大きな乖離があればセンサーの故障と判断できます。

 しかしプラントに異常が生じている場合、センサーは異常なままのデータを出力するため、AIの予測(推定値)とXガス分析計が出力する実際の値(実測値)が一致するはずです。これにより、単にセンサーが故障しただけなのか、プラントが異常な状態になっているのかが判断できるというわけです。

 さらにAIを活用することで、20分後のガス濃度の高精度な予測も可能にしています。プラントの異常を事前に検知することができれば、その後の対応に大きな差が生まれるのは想像に難くありません。プラントの異常によって莫大な損失が生じる可能性があることを考えると、AIがもたらすメリットは極めて大きいと言えるのではないでしょうか。

IoT×AI事例/化学プラントの運転支援(2)

 

複数のデータを使うことで高精度な分析を実現

 同様にIoT関連のAI活用事例として挙げられるのが、主に法人向けに商用車のリースを行っている日本カーソリューションズ株式会社における分析です。同社では車両に取り付けたドライブレコーダーの映像をチェックし、事故につながりかねない危険な運転をレポートとして提供するサービスを提供しています。しかしながら、目視で膨大な映像を確認する作業は大きな負担となっていました。そこで映像チェックをAIに代替することを目指し、NTTコミュニケーションズと共同実験を実施することになったのです。

 ここで使われたのは、NTTコミュニケーションズが開発した時系列マルチモーダルディープラーニングと呼ばれる技術です。これは時系列の映像データに加え、センサー情報など種類の異なる情報もまとめて学習できるエンジンであり、1種類の情報だけで学習するよりも分析精度を高められる利点があります。この技術を利用し、ドライブレコーダーの映像と車両のスピードや加速度などといったセンサーデータをセットで取り込み、危険な運転とそうでないものを判断させたのです。

IoTデータの特徴

 人間であれば、映像を見ただけでヒヤリハットかどうかはわかるでしょう。しかしAIによる分析の場合、映像だけの場合とセンサーデータを組み合わせた場合で分析精度は大きく変わると伊藤氏は説明します。

 「今回の例で言えば、映像のみによる分析にすると精度は10%程度落ちると思います。なぜかというと、映像は非常に複雑なんですね。映像ごとに映っているものが大きく変わってしまうため、ヒヤリハットを的確に見分けるのはかなり困難です」

IoT×AI事例/運転解析支援

 

約85%の精度でヒヤリハットを検出

 なお、AIによる分析では事前の学習も精度を大きく左右する要因になります。学習方法はいくつかありますが、今回使われたのは「教師あり学習」と呼ばれる手法です。これは正解とそうでないものをタグ付けしてAIに与え、何が正解かを学習させるというものです。

 「学習データとして用意したのは、日本カーソリューションズ様にタグ付けしていただいた、二輪車が絡んだヒヤリハットです。具体的には、二輪車が絡んだヒヤリハットと、ヒヤリハットでないものを提供していただき、それを学習させました。それによって、二輪車が絡むヒヤリハットはおおよそ90%の精度で検出できるようになりました」

 とはいえ、当然ですが二輪車以外が関係するヒヤリハットもあります。それらについてはあえて学習させず、自動車や歩行者も対象としたヒヤリハットを検出できるかどうかを確認したところ、約85%の精度で検出できたとします。二輪車が絡むヒヤリハットの分析精度よりも5ポイントほど低下しましたが、クルマや人とのヒヤリハットがどういったものかをAIは知らないことを考えると、非常に高い精度が得られたと言えるでしょう。

 

AIの活用には課題を明確にすることが重要

 このほか、NTTコミュニケーションズ自身で運営している、データセンター内の温度のシミュレーションにもAIが活用されています。サーバーの安定稼働のため、データセンター内の室温は一定以下に保たれていますが、そのための空調に多くのコストがかかっています。そこでAIを活用し、外気温と空調の出力、そして空調温度を使い、データセンター内の各ポイントの温度が将来的にどのように変化するかをAIで予測し、温度管理の適正化に役立てるという内容です。

 「実際にAIでシミュレーションしたところ、平均で±0.16度の誤差で30分後の温度を予測できることがわかりました。このようにシミュレーションすることができれば、それに従って適切な温度管理ができるのではないかと考えています」

IoT×AI事例/データセンターの運用効率改善

 現時点では、シミュレーション結果を利用して空調を調整するといったことは行われていないとのことですが、将来的にはAIが温度を監視し、自動的に空調を制御するといったことも十分に考えられるでしょう。

 ここまで解説したように、IoTとAIの組み合わせはさまざまな領域に適用できる可能性を秘めていますが、実際にAIをビジネスに活用するためにはいくつかの抑えるべきポイントがあると伊藤氏は説明します。

 「まず解くべき課題が明確化されていなければ、AIを使ってもなかなかベネフィットは得られません。流行っているからAIを活用したいといったモチベーションでは、成功はおぼつかないでしょう。さらに分析対象となるデータも必要です。課題を解決するために必要なデータが収集されていなければ、AIに分析させることはできません。しかし、データを新たに収集するには多大なコストがかかります。先ずは現在入手可能なデータの中で、課題解決に繋がる可能性があるデータを用いて課題解決が可能か評価を行った上で、必要に応じて収集するデータを増やすというアプローチが良いと思います。その上で目的に適したAI技術を使えば、ビジネス課題の解決に近づけるでしょう」

 なおNTTコミュニケーションズでは、今後AI関連技術の研究開発を推進し、対応するデータ種別の拡大やリアルタイム処理の実現、さらには検知や予知に加え、その結果に応じた制御にまで踏み込むといった目標を掲げています。これらが実現されれば、AIの活用領域はさらに広がっていくのは間違いありません。

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Bizコンパス編集部

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