働きやすさの向上を図るグローバルICT基盤を構築

三菱電機の海外事業強化の鍵、ハイブリッドクラウド

2017.02.10 Fri連載バックナンバー

 日本有数の総合電機メーカーである三菱電機グループがグローバル事業の強化を目指し、グループ内のICT基盤整備に本格的に着手しました。「Office 365」などのクラウドサービスの積極的活用と同時に、自社で構築しているプライベートクラウドとの連携を図ったハイブリッド環境での運用が大きな特徴です。グループのITを統括している三菱電機のIT戦略室に、その取り組みの背景や狙い、具体的な施策や今後の展望などを伺いました。

 

グローバル強化という経営方針を背景にICT基盤の整備を推進

 三菱電機株式会社は、1921(大正10)年に設立され、2020年には創立100周年を迎えます。日本を代表する総合電機メーカーとして、重電システム、産業メカトロニクス、情報通信システム、電子デバイス、家庭電機などの事業分野において幅広い製品やサービスを国内外に提供しています。三菱電機を核とする三菱電機グループは、コーポレートステートメントとして「Changes for the Better」という言葉を掲げ、常により良いものを目指して変革していく姿勢をもって事業を展開。「グローバル環境先進企業」として時代の要求に応えられる企業集団を目指すとともに、もう一段高い成長の実現に向けて、変革への挑戦を続けています。

 グループのITを統括する三菱電機IT戦略室長を務める執行役員の木槻純一氏は、グローバルICT基盤の整備に着手した背景やその狙いを説明します。

 「我々は、創立100周年に向けての具体的な経営目標として、2020年度までに売上高5兆円以上、営業利益8%以上という数値を設定し、それらを実現するための経営方針として、『強い事業を核としたソリューション事業の強化』や『グローバル展開の拡大』等を掲げています。2014年度に目標を設定し、2015年度からテーマごとに活動を展開していますが、IT戦略室では、主要プロジェクトとして、グローバル展開強化を主眼に置いたICT基盤の整備・強化に取り組んでいます。この取り組みには、『サイバー攻撃対策の強化』『情報共有とコミュニケーションの効率化』『ICT基盤提供の迅速化』という大きな3つの狙いがあり、それぞれについて課題を抽出し、解決策を立案していきました」

 

効率化とセキュリティの両立を図りハイブリッドクラウドを選択

 従来、三菱電機グループでは、企業や拠点ごとに独自にITシステムを構築していたため、個別最適の状態になっていたと言います。海外進出を拡大していく中、海外とのコミュニケーションや情報共有の機会や必要性が大きく増加しており、従来の状況では非効率になっていた面があったとのこと。当然、セキュリティ対策も各拠点でバラバラの状態であり、統一・強化を図っていく必要がありました。

 「昨今、どの企業にも言えることですが、セキュリティは極めて重要なテーマです。特に当社はインフラなどを幅広く提供していることもあり、サイバー攻撃の標的になりやすいという側面があります。これまではウイルスに感染した端末の特定に時間を要する場合がある、万一ファイルが盗み出されてしまった際の情報保護体制の整備が拠点によっては万全とは言えないなどの課題がありました。そこで国内外約300拠点、19万台の端末を一元管理し、セキュリティパッチの自動適用、ウイルス感染に対する集中監視や自動検知を行うことにしました」(木槻氏)

 2つ目の狙いであるグループ内の拠点をまたぐ情報共有とコミュニケーションの効率化については、「いつでも、どこからでも、安心して快適に利用できるIT環境」の構築を目指し、グループのITシステムを標準化・共通化し、24時間365日利用できる可用性を実現するという方針が定められました。また、3つ目の狙いであるICT基盤提供の迅速化については、新しく設立する海外拠点にITの専門スタッフがいなくても、スムーズかつスピーディーにITの利用が開始できることを目標に掲げました。同時に、これら2つの狙いに共通して、コストを抑制しながら段階的に導入することも不可欠な要素だったと言います。

 「拠点間の情報共有やコミュニケーションを効率化することと、インフラ提供を迅速化することには、投資費用面からもパブリッククラウドを積極的に利用することが非常に有効であると判断し、Microsoftの『Office 365』をグローバルに導入し、一部のシステムを「Microsoft Azure」上で稼動させることとしました。パブリッククラウドの利用については、セキュリティへの懸念などから社内でも議論がありましたが、世の中の潮流や導入事例が増加している状況を見るとともに、十分な方式検討を重ねた末、プライベートクラウドと同等のセキュリティを確保可能と判断し、利用を決断しました。とはいえ、秘匿性の高い情報はやはり社内で管理する必要があります。セキュアな情報やそれに関わるシステムは、グループ内で構築しているプライベートクラウド上に置き、パブリックとプライベートという2つのクラウド環境を連携させ、ハイブリッド形で運用するという基本構成を立案しました」と、木槻氏は基盤整備の具体的方向性を語ります。

 

異なるクラウド環境の連携に重要な役割を担う閉域接続サービス

 このような構成の新しいICT基盤の運用において、非常に重要なポイントとなったのが、Office 365やMicrosoft Azureといったパブリッククラウド基盤と三菱電機グループのプライベートクラウド基盤を結ぶ閉域接続でした。同時に海外におけるネットワークを再構築する必要もあり、三菱電機では、複数の事業者をさまざまな角度から検討。最終的にNTTコミュニケーションズが選択されました。

 木槻氏は、「サービスの品質やコストなどを総合的に見て判断しました。海外におけるコミュニケーションや実績が確かであること、国内企業の事情をよくわかっていることも重要なポイントでした」と、選択の要因を挙げます。

 IT戦略室において、このグローバルICT基盤プロジェクトのマネージャーを務めている岩切博氏は、閉域接続部分における選択理由を付け加えます。

 「当社では、以前からNTTコミュニケーションズのVPNサービスである『Arcstar Universal One』を採用していました。今回、パブリッククラウドと社内ネットワークの接続は極めて重要であり、回線品質やセキュリティの高さが求められました。その部分にはNTTコミュニケーションズの『Multi-Cloud Connect』を利用したのですが、既存のネットワークを経由して接続できることがメリットであると考えました」

 全世界196の国と地域で提供されているArcstar Universal OneのオプションサービスであるMulti-Cloud Connectは、「Salesforce」やMicrosoft Azure、「Amazon Web Services(AWS)」といったクラウドサービスとの閉域接続を提供。セキュアなVPNで接続されたマルチクラウド環境を実現し、三菱電機のようなハイブリッド環境を迅速かつ柔軟に構築することができます。

クラウド基盤構成イメージ

 

基盤強化で得られる多様な効果と新たに見えてきた課題とは

 このグローバルICT基盤整備における各施策は2015年から部分的に導入がスタートし、2016年10月より本格的な導入が推進されています。

 「NTTコミュニケーションズの閉域接続の部分では、まだ導入事例が少なかったこともあり、事前の検証や接続確認に少々手こずりましたが、本格導入後は非常に安定した稼動を続けています。その点はかなり高く評価しています」と岩切氏。グローバルネットワークの部分では、中国において導入効果が表れていると言います。

 「従来、中国では各社個別にネットワーク回線を引いていましたが、今回の取り組みでNTTコミュニケーションズのサービスに集約しました。コストが大幅に低減された上に、通信速度が速くなり、現地の関連会社は非常に喜んでいます。ほかの地域でも、このような展開を広げていきたいと考えています」と木槻氏は、その効果について話します。

 セキュリティについては、端末監視などによるウイルス感染防止のほか、万一ファイルが外部に持ち出された場合の自動暗号化のシステムにより、社外への情報漏えい抑止などの効果が期待されています。さらに情報共有やコミュニケーションの分野では、Office 365の「SharePoint」によるファイル共有、「Exchange」によるメール機能、「Skype for Business」のオンライン会議導入により、大幅な効率化や円滑化が見込まれています。

 Office 365については、2016年度中にグローバルを含め約5万人の利用規模まで導入を拡大させる予定ですが、運用を進める中で見えてきた課題もあるようです。

 「これまではオンプレミスでシステムを構築していたため、細かい部分まで我々の思うようにコントロールできていました。ユーザーに対しても“かゆい所に手が届く”サービスを提供していましたが、パブリッククラウドではそうはいきません。パッケージ商品ですので、使い勝手も変わりますし、クラウド側のバージョンアップなどにいかに追従していくか、バージョンの管理などが今後の課題になるでしょう」(木槻氏)

 

今後も事業の効率化や拡大に資するICT基盤の強化を推進

 木槻氏は具体的数値を交えて、これからの推進目標をコメントします。

 「遅くとも2020年度までに、全世界に展開している300拠点すべてに今回のICT基盤の導入を進める予定です。それが完了すれば、グループ全体において年間約20%の費用削減が実現できると試算しています。とはいえ強制的に一気に導入を進めるのではなく、各拠点に納得してもらいながら、段階的な導入を図っていきます。そういった面でも、変動費として扱えるパブリッククラウドの利用にはメリットを感じています」

 セキュリティ対策の部分では、日々巧妙化するサイバー攻撃に対し、引き続き対策強化を図っていきたいとのこと。既にセキュリティインシデントに対応する専門チームである「CSIRT」を国内で運用していて、グローバルにも一部対応。今後さらに海外への対応を強化していく必要があると言います。

 また、業務の効率化や働きやすさといった面では、今回構築したITインフラをベースにモバイル環境を整備し、BYOD導入によるスマートフォンの活用拡大も予定していると言います。

 「Office 365にはテレワークの積極的推進という側面からも期待を寄せています。Skype for Businessにより、自宅や出張先からも会議への参加が可能になるでしょう。どこからでも安全に利用できるIT環境を用意し、働き方の改革にも貢献していきたいと考えています」と、木槻氏はコメントを加えます。

 最後に、他社への助言を交えこう結びました。

 「当社が最先端の事例であるとは思いませんが、IT環境の改革やクラウドの利用を躊躇されている方々には、『10年後もこのままでいいのでしょうか』と伺いたいです。10年後、モバイル端末の利用やテレワークはどうなっているのか。IoT導入により企業の仕組みも大きく変わるかもしれません。さまざまな変化が確実に起きていると思われます。そう考えると、あまり時間はないのです。社内のシステムを変革しようとすれば、ある程度時間もかかりますし、機器更新のタイミングもあるでしょう。5年度や10年後にどうあるべきかというビジョンを立て、そこに向かって着実に歩を進めていくことが重要ではないでしょうか。我々もさらなるICT基盤の強化に取り組み、事業運営の効率化や事業拡大に寄与していきたいと考えています」

 幅広い事業を世界的に展開する三菱電機グループが今後地球環境の保全や改善に果たす役割は決して小さくないでしょう。その事業活動を新しいグローバルICT基盤が支えていきます。

※掲載されている内容は公開日時点のものです。
※掲載されているサービスの名称、内容及び条件は、改善などのために予告なく変更することがあります。

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Bizコンパス編集部

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