デジタル時代のビジネス創造を考える(第2回)

実装が進むディープラーニングのビジネス最新動向

2016.07.27 Wed連載バックナンバー

 2016年4月、NVIDIAの主催で世界最大のGPUイベント「GTC 2016」が開催されました。そもそもGPU(Graphics Processing Unit)とは、その名が示す通りコンピュータの画像処理を担当する主要部品ですが、現在ではHPC(High Performance Computing)と呼ばれる高度科学計算の領域でも広く利用されるようになっています。

 次世代事業の成長の柱を「AI」と「VR」ととらえるNVIDIAでは、今回のカンファレンスのメインテーマを「ディープラーニング」として、関連するさまざまなセッション、展示を行いました。注目すべきは前年のGTCからディープラーニングが格段の進化を遂げていたこと。すでに実験的なアプローチではなく、さまざまな領域でディープラーニングを実装したビジネスモデルが生まれつつあるのです。そこで今回はデジタル時代のビジネスを考える上で欠かせない、ディープラーニングの最新事例をご紹介します。

 

ここまでディープラーニングが注目される理由

 1950~60年代の第1次、1980年代の第2次に続き、いま、世界では第3次AIブームが起こっています。ブームをけん引する新技術として注目されているのがディープラーニングです。これは人間の脳神経構造を模倣した多層構造のニューラルネットワークで、コンピュータが自律的に学習を行う点が最大の特徴といえます。

 これまでのルールベース、機械学習と呼ばれる技術では、「教材」となるデータ入力後、各専門家の設計をもとにしてコンピュータが学習を行いました。ところが、ディープラーニングでは「教材」となるデータさえ渡せば自らその特徴を解釈し、解釈すべき基準を自動的に見つけ出します。これにより汎用性が向上、使いやすくなったAIはいっきに適用範囲を拡大していきます。

 2015年には画像認識能力でコンピュータが人間を超えたことが大きなニュースになりました。また最近ではコンピュータが描いた絵、綴った小説なども登場しており、その裾野は広がる一方です。もちろん、自動運転車、ロボットなど自律的に動く機械にはAI、ディープラーニングの実装は不可欠になります。

 前置きが長くなりましたが、今回の「GTC 2016」では、ディープラーニングがさまざまな領域において実装されつつあることを示す展示が目立ちました。前年は画像認識がディープラーニングの展示の多くを占めましたが、今年は全137セッションのうち15%にとどまりました。一方で自動車や医療、ロボットなど、さまざまな分野でディープラーニングを活用した実用的な展示が増えています。

 それでは早速、注目すべきディープラーニングの最新事例をいくつか紹介しましょう。

「GTC2016」ディープラーニング関連コンテンツ

 

ディープラーニングを画像検索に適用した先進のビジネスモデル

 まずはディープラーニングのお家芸ともいえる画像検索の最新事例です。ひとつめは中国最大のECプラットフォームを提供するアリババ。以前より同社ではスマホで撮った写真で商品を検索できるサービスをアプリで提供していましたが、画像検索の精度に課題を抱えていました。

 そこで男性・女性用、大人・子ども用といったカテゴリーの分類、写真に写ったオブジェクトの検出、利用者の属性分析でディープラーニングを活用。同一商品、類似商品の画像検索の精度を大きく高めることに成功しています。こうしたサービスは、今後、間違いなく多くのECプラットフォームで提供されていくでしょう。

 続いてはデザイン、DTP関連のソフトウェアのリーディングカンパニー Adobe。こちらは開発中の「Deep Font」というフォント画像検索サービスにティープラーニングを使っています。これは使用するフォントに広告効果があるか、あるいは新しく開発するフォントデザインに独創性があるかなど、デザイナーのクリエイティブな作業をサポートするものです。

 世の中には10万種類もの膨大なフォントがあり、微妙なデザインの違いを認識するのが難しく、サンプルデータの収集も容易ではありません。この課題を解決すべく、ディープラーニングを活用してフォント画像検索の精度を向上。すでに第一回答で71.4%という正答率を出しており、こちらも近い将来にサービスとしてお目見えするのではないでしょうか。

 スケールの大きなところでは、石油、天然ガスなどを見つける地中探査でもディープラーニングが活用されています。これはマサチューセッツ工科大学(MIT)とShellが共同で行っている取り組みです。

 これまでは断層の調査を行い、調査データに基づき3次元マッピングで断層を視覚化し、それを元に人間が「石油のたまりやすい断層」を特定するのが一般的でした。しかし、断層を見つけ出すためには、高いスキルや専門的な知見が必要になり、工程も複雑なため時間もかかります。この取り組みでは、ディープラーニングで作業を自動化して、より高精度かつ短時間での特定に挑みました。現在の特定精度は単一断層で77%、複数断層では86%になるといいます。

 身近なところでは美容関連の事例もあります。これはユースラボラトリーという美容メーカーの取り組みで、ディープラーニングを使ってしわの状態で顔年齢を診断する仕組みです。

 人間が顔年齢を診断すると、意見が部分的になり、主観でさまざまなバイアスがかかるため、一貫した評価が難しいというのが同社の抱える課題でした。そこで肌年齢の推定するシワ、シミ、くすみなどの要因から、ポイントをシワに絞ってディープラーニングを活用したところ、従来手法より高い診断結果が出ました。同社ではこの技術を利用して肌年齢を診断、最適なスキンケアを提案するアプリケーション開発を目指しています。

 

医療におけるディープラーニングの活用

 医療分野でのAI活用は古く、すでに1970年代には専門領域の知識を取り込み、推論を行うエキスパートシステムが登場していました。しかし、専門家へのヒアリングで知識を集める必要があるため、膨大なコストがかかり、また数百、数千のルールを矛盾させることなく、一貫性を持たせる維持管理には大変な処理が必要になります。こうした課題を解決したのが自律的な学習を行うディープラーニングでした。

 「Kaggle(カグル)」という、世界中からデータサイエンティストが集うコミュニティをご存知でしょうか。ここには企業が提示した課題に対し、もっともすぐれた分析モデルを提案した応募者が高額な賞金を得るしくみがあります。また最近では、このサイト上での実績が、データサイエンティストの経歴として評価されるようになってきております。最近はディープラーニングを活用した医療向けデータ分析で、このコンペを獲得するケースも目立っています。

 たとえば「心疾患の判定」という課題に対しては、こんなデータ分析モデルが選ばれました。心臓の動作サイクルがわかる30枚のMRI画像データ、性別、年齢などのメタデータをディープラーニングにかけて、左心室の最大容積、最小容積を推定。不整脈などの異常を検知し、心疾患の予兆がわかるというものです。

 また「眼病の判定」という課題では、スタンフォード大学の取り組みがあります。これは眼底画像から眼病の進行状況を5段階で予測するもので、全体特徴と個別特徴という2つの抽出データを組み合わせた精度の高い診断がポイントになっています。また、従来のディープラーニングではサイズの小さいデータを使うのが一般的ですが、この取り組みではあえてデータサイズを大きくすることで、より細かい特徴を抽出できるようにしています。

 これらのデータ分析モデルは、あくまでも従来モデルの精度を向上するものですが、まったく、これまでにないアプローチから切り込んだ例もあります。それはロサンゼルス子ども病院の「DR. TED」です。これは過去10年、約12,000人もの患者の治療データをもとに、ディープラーニングで特徴を抽出して、死亡率の予測をしたり、もっとも有効な治療法を割り出したりする取り組みです。

 血液、尿などの分析データ、体温、脈拍といったバイタルデータ、医学的処置の履歴データなどから、「時間軸」という切り口で特徴を抽出するところが、最大のポイントになっています。これにより既存の手法に比べて「死亡予測率」の精度は83%から90%まで上昇。また「患者の状態変化の予測」においても結果との照合により高い合致率を実現しています。治療効果を時系列で分析し、治療方法の「いい、悪い」を見える化して、より最適な治療法をつくっていく。まさに医療機関ならではの取り組みといえるでしょう。

 

次なるディープラーニングのトレンド「強化学習」とは

 昨年あたりから、ディープラーニングに変わる技術として注目されているのが「強化学習」です。ディープラーニングとの大きな違いは、「教材」となるデータが不要になること。代わりにコンピュータが自律的に行った判断結果に対して「報酬」と「ペナルティ」を与え、何度も試行錯誤を繰り返させることで学習させるというものです。

 強化学習を説明する上で、もっともわかりやすい例がGoogleの子会社ディープマインドが開発した人工知能「Deep Q-Network(DQN)」でしょう。このDQNは昨年のGTCに出展され、「ゼロからテレビゲームをプレイして、独自に攻略方法を見つける」AIとして大きな話題を呼びました。

 たとえば「ブロック崩し」のプレイでは、… 続きを読む

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Bizコンパス編集部

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