人工知能(AI)はビジネスにどう活用されるのか(第6回)

プログラミングは不要?イノベーションの民主化とAI

2016.07.06 Wed連載バックナンバー

 「AI(人工知能)」への期待が高まるにつれ、いったい何がAIなのか、何ができるのか、どうやってビジネスに採り入れたらよいのか、さまざまな誤解も生まれているようです。私たちの身近な業務にも役立つAI、それどころか私たち自身が作ってみることすらできるAI。その可能性について学生時代からAIの研究に携わってきたNTTコミュニケーションズの阿部隆一氏にお話を伺いました。

 

AI活用の基本“AIを作る”とは?

 1990年代の国内パソコン市場において圧倒的なシェアを誇ったNECのPC-9800シリーズは、業務用としてだけでなく、ゲームをプレイするためのプラットフォームとしても多くの人たちに愛用されていました。アートディンクから1994年にリリースされた「HR2」もそうしたPC-9800用ゲームタイトルの一つですが、一風変わっていたのは独自のプログラミング言語「mini-C」が搭載されていたことです。ゲームは最大16体のロボットを操ってビルを建てることが目的なのですが、このロボットは直接操作することはできず、プレイヤーがmini-C言語でプログラミングしたアルゴリズム、すなわちAI(人工知能)に沿って動くのです。

 翌年、同じくアートディンクからPlayStation向けに発売された「カルネージハート」もさらにユニークなゲームでした。「OKE(オーバーキルエンジン)」と呼ばれるロボットを戦わせるゲームでありながら、プレイヤーはロボットを直接操作することはできません。ロボットは、プレイヤーがプログラミングした「前方200m以内に敵がいれば射撃、いなければ50m前進」といったアルゴリズム、すなわちAIの動作に従って戦うのです。プログラミングは、「HR2」のようにプログラミング言語でコードを書くのではなく、さまざまな動作や処理を定めた「チップ」と呼ばれるタイル状のアイコンを並べることで可能になっており、敷居が大きく下がったことでプレイヤーが増え、シリーズ化もされました。

 いずれも玄人向けのゲームでしたが、熱狂的なファンも多く、これらのタイトルでプログラミングの楽しさを覚えたという人も少なくありません。しかし、これらは画面の中、仮想空間の中での遊びでした。

 翻って現在、子供たちにプログラミングに興味を持ってもらうため、楽しく学ぶことのできる環境整備が進んでいます。たとえばパソコンやタブレットで動作をプログラミングすると、その内容に従って現実のロボットが振る舞うといったものがありますが、「カルネージハート」同様、それぞれ動作や処理が異なるアイコンを組み合わせることで可能になっています。コードを書かなくても、子どもたちがプログラミングに慣れ親しめるように配慮されているわけです。

AIは、実は身近なところで使われてきた

 

一人一人がイノベーションを起こすことがAI活用のカギ

 ITを活用したイノベーションのこれからを考えるとき、決して避けて通れないのがAIの活用です。たとえば何らかの判断が必要な業務において、常に人が介在するのではなく、コンピューターが人の判断が必要なものとそうでないものとをフィルタすることができれば、大きな業務効率の向上が望めるでしょう。その実現において、AIは極めて大きな可能性を秘めています。AIにはさまざまなタイプがあります。今日現在、AIというと、高い注目が集まっているディープラーニング(深層学習)などを応用した高度なものを思い起こす方が多いかもしれませんが、先に挙げたロボットたちのように、人間がアルゴリズムを考え、プログラミングを行い、それに従って“仕事”を行ってくれる仕組みも、立派なAIです。従来の音声認識やOCR(文字認識)の仕組みなども同様です。これらは特定の問題を解決するソフトウェアとして、定型的な仕事を自動化する際には大きな効果を発揮できますし、何より比較的誰でも、手軽につきあうことができるAIとも言えます。

 かつてはPCやゲーム機の中、画面の中だけの存在だったAI搭載ロボットも、その後の画像認識技術、音声認識技術、センサー技術、サーボモーターなどの高度化と普及を経て、人間の代わりを務めるバーチャルアシスタントや業務用、あるいはコミュニケーション用のロボットとして活躍の場を広げています。AIのビジネス活用とプログラミング教育の意義、関係について、NTTコミュニケーションズの阿部隆一氏は次のように語りました。

「これまでのイノベーションはAppleやGoogleなどに在籍しているすごい人たちが起こしていて、それが社会に浸透していくという流れでした。しかし、今後はそれぞれの現場で各人が小さなイノベーションを起こし合っていくという方向にシフトすると思っています。たとえば日本の労働生産性は低いと言われていて、業務効率を高めることが大きな課題だとされていますよね。AIによる業務改革や自動化への期待が日々高まっているゆえんです。しかしそれを実現するためには、ビジネスに携わっている一人一人がイノベーションを起こせなければならない。つまりイノベーションの民主化が必要なんです」

 このイノベーションの民主化、そして身近なところでのAI活用のためには、プログラミング教育でアルゴリズムの作り方を学んだり、AIエージェントソフトウェアを実装したりする能力が求められるとした上で、阿部氏は「アメリカやイギリスはすでにプログラミング教育に取り組んでおり、日本でも2020年から実施する方向で進められていますし、ビジネスパーソンがプログラミングを学ぶ動きも始まっています。こうした教育を受けた人々が近い将来、職場で、定型的な業務は自ら作ったお手製AIエージェントに委ねて、より創造的な仕事に注力居ていくようになると考えています」と話しました。

 

AI活用に必要なのは“ロジックやフロー、アルゴリズム”を考える力

 業務効率を大幅に高めるための改革を進めるには、ITの活用が必要不可欠です。身近な例で言えば、経理業務でExcelのマクロを使いこなし、手間をかけずに必要な帳簿を作成できるようにするといったことが挙げられます。とはいえ、実現のためにはExcelのマクロの実体であるVBA(Visual Basic for Applications)言語の知識を持ち、さらに書類の自動作成に必要なロジックを考える能力が必要でした。

「今後、イノベーションの民主化を起こすためには、必ずしもプログラミング言語の知識は必要ではなくなるでしょう。ですが、ロジックやアルゴリズムを考える能力は必ず必要になります」と阿部氏は指摘し、次のように続けました。

「経理部門の人たちって、Excelを使うのがすごくうまいんです。マクロを使いこなして、数字を処理する仕組みを整えているのですが、そのためにはそれなりの知識とスキルが必要だったんですね。しかしながら、もっと誰でも使えるような環境を整えなければ、イノベーションの民主化は達成できません。そこで、プログラミング言語の知識がなくても使えるツールの開発があちらこちらで進められています」

「そもそも目的はコードを書くことではなく、それによって作業を自動化したり、新たなビジネスのための仕組みを生み出したりすることでしょう。そこで人間に求められるのはロジックやフロー、アルゴリズムを考える力であり、現在の欧米のプログラミング教育はまさにそれを養うことを目的としています」と阿部氏は説明します。

 今後はプログラミングと呼ばれる行為そのものが大きく変わる可能性があります。従来のプログラミングは、アルファベットがずらずらと並んだソースコードを記述するというものでした。コンピューターが理解できるように記述する必要があり、少しでも間違えれば正しく動作しません。しかし現在の教育の現場で使われているのは、あらかじめ処理が設定されたアイコンを画面上に配置し、アイコンを線でつないでいけばロジックやフロー、アルゴリズムを表現できる、グラフィカルプログラミングツールなどと呼ばれているものです。

 冒頭で紹介したアートディンクの2つのゲームタイトルも、HR2ではmini-Cという言語を覚える必要がありましたが、その後に登場したカルネージハートはチップを組み合わせるだけでプログラミングができるようになり、敷居を大幅に下げています。この仕組みも、立派なグラフィカルプログラミングツールです。そして現在の低年齢層向けプログラミング教育ツールは、同じようにアイコンを組み合わせてプログラミングするだけで、現実のロボットを動かせるように進化したわけです。

 このようなグラフィカルプログラミングツールはビジネスの世界にも広まりつつあり、難しいプログラミング言語を学ばなくてもプログラムを作れるようになりつつあります。たとえば、昨今注目を集めているヴイストン株式会社の対話型ロボット「Sota」も「VstoneMagic」というグラフィカルツールで動作や会話パターンのプログラミングが可能になっています。今後、音声認識や画像認識の機能を持ったAIやロボットを、アイコンを組み合わせる簡単なツールを使ってプログラミングし、暮らしの中や、あるいはビジネスの業務効率化に役立てるようなシーンはますます広がっていくのではないでしょうか。

 

これまでのAIと、これからのAI

 このように多くの人がプログラミングを通じてAIエージェントをつくり、業務を効率化しあっていくイノベーションの民主化の時代が訪れる一方で、こうした従来型のAIだけでは解決できない課題も存在します。そこで期待されているのが、もうひとつのAIです。… 続きを読む

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Bizコンパス編集部

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