徹底解説!基幹系システムのクラウド移行(第3回)

いまなぜ、ERPのクラウド化が増えているのか?

2014.10.15 Wed連載バックナンバー

 「独自開発するよりも導入の負担が小さい」「統合マスタや統合データベースによる情報の一元化が可能」などのメリットから、多くの企業で活用されているのが「ERP」です。今回は、このERPをクラウドに移行するメリットや、サービス選定時にチェックすべきポイントなどについて解説していきます。

 

クラウド活用で柔軟なERP運用を実現する

 ハードウェアのリプレース、あるいはバージョンアップなどのタイミングで、ERP(Enterprise Resource Planning)パッケージ(以後、ERP)を従来のオンプレミスからクラウドへと移行する企業が増えています。言うまでもなく、ERPは企業のIT環境における中核であることから、それが止まれば事業に大きな影響が生じるのは避けられません。実績のあるオンプレミスからクラウドに移行する背景には、クラウドが「信頼できるインフラである」という認識が広まったことに加え、「オンプレミスにはないさまざまなメリットがある」ためです。

 では、クラウドに移行するメリットとは何でしょうか。具体的には、「市場の変化へのスピーディな対応」や「品質向上」、「TCO削減」、「ガバナンス強化」、「サイジングの簡略化」、「海外展開が容易」といったことが挙げられます。

 まず、「市場の変化へのスピーディな対応」から見ていきましょう。経営環境が刻一刻と変化している現在、ERP環境も事業規模の拡大や縮小、あるいは拠点の増減に迅速に追従できることが求められます。しかし調達から実稼働にまで時間がかかり、さらに資産として保有する必要がある物理サーバーで、経営環境の変化に迅速かつコストの無駄なく対応することは難しいでしょう。このような要件に対応できるのがクラウドであり、仮想サーバーを必要に応じてオンデマンドに利用できるIaaS(Infrastructure as a Service)であれば、システムの拡張や縮退を迅速に、そしてコストの無駄を生じさせずに実現することができます。

 本番用のサーバーに加え、開発機や検証機がすばやく用意できる点も見逃せません。そもそもERPの構築や運用においては、まず開発機で設定やアドオン(機能を追加するプログラム)の開発を行い、その内容を検証機でテストし、問題がなければ本番機に反映するという流れでプロジェクトを進めていきます。このようなサーバー構成を「3システム・ランドスケープ環境」と呼びますが、開発機や検証機まで含めてすべて物理サーバーで用意するのは大きな負担になります。しかしIaaSであれば、手間やコスト負担を抑えて必要なサーバーを用意することが可能です。

 ERPのクラウド化は、運用環境の「品質向上」にもつなげられます。多くのクラウドサービスは適切に管理された堅牢なデータセンターで運営されているため、サーバーへの物理的な不正アクセスといったセキュリティリスクの解消、そして災害リスクの大幅な軽減になるためです。またAmazon Web Servicesの「Amazon EC2」やNTTコミュニケーションズの「Bizホスティング Enterprise Cloud」では、複数の拠点で同一のIaaSを提供しているため、大規模災害に備えたバックアップサイトの構築も可能です。

 「TCO削減」につながることも、多くの企業がクラウドに移行する理由の1つでしょう。そもそもIaaSは使った分だけ支払うという課金形態であり、さらにCPUやメモリ、ストレージといったリソースをユーザー自身できめ細かく調整できます。このため、必要なリソース量を適切に見積もることなどにより、コストの無駄を抑えてERPを運用することが可能です。それに加えて、初期費用の削減、そしてハードウェアの運用をアウトソースできるメリットも大きいでしょう。

 

ERPのクラウド化で実現するガバナンスの強化

 各拠点で利用しているシステムがバラバラなど、ITガバナンス上の問題への対応においてもクラウドは有効です。すべての拠点で同じIaaSを利用すればサーバーインフラを統合することになり、コスト最適化やセキュリティ強化などの施策を進めやすくなるでしょう。各拠点で利用しているサーバーのリソース量や、その利用状況などを可視化できることも利点になります。

 IaaSであれば、「サイジング」や「キャパシティプランニング」と呼ばれる作業を簡略化できることもメリットでしょう。ERPの導入においては、想定される会計データの量や単位時間あたりの受発注の処理回数などをもとに、サーバーのCPUやメモリ、ストレージなどのスペックを検討していくわけですが、難しいのは将来の利用状況を想定する必要がある点です。たとえばそのシステムを5年利用するのであれば、5年後の状況を想定し、ハードウェアのスペックを算出することが求められます。

 ただ、現実的には数年先のサーバーの利用状況を正確に予測するのは困難です。物理サーバーを利用する場合にはこの点がネックになりますが、IaaSならCPUやメモリ、ストレージといったリソースを柔軟に変更することが可能なため、その時々のシステムの利用状況に合わせてリソースを調整するだけで済みます。これにより、サイジングの手間を大幅に軽減することが可能です。

 クラウドであれば、「海外拠点のERP展開における負担を軽減」することが可能であることも大きいでしょう。具体的には、世界の複数拠点で同一サービスを提供しているIaaSを利用することで、ERPのインフラをモデル化して展開することが実現し、統合的な管理を行えるようになります。

 

ERPで利用するクラウドはグローバル対応力が重要

 このように、さまざまなメリットがあるERPのクラウド化ですが、それでは実際に利用するサービスをどのように選ぶべきでしょうか。具体的なサービス選定のポイントとしては、以下にまとめてみました。

 この中で特に注目したいのは「グローバル対応」と「他システムとの連携」、そして「導入時や運用のサポート体制」です。

 前述した、「ガバナンスの強化」や「海外展開の容易性」といった導入効果を得るためには、そのIaaSがグローバルで展開されていることに加え、どの拠点でも同じIaaSとして提供されている必要があります。国によって提供されているサービスに違いがあるといった場合、ガバナンスの強化につながらないだけでなく、利用するサービス内容をグローバルで一元化できないため、インフラ管理が複雑化する可能性もあります。グローバルで利用するERPのインフラを選ぶのであれば、このポイントは極めて重要です。

 既存システムの監視サーバーや、バッチ処理などで利用するジョブスケジューラなどとクラウドの連携ができるかどうかも重要です。これが可能であれば、既存の監視サーバーやジョブスケジューラを利用し、オンプレミス環境の場合と同様にERP環境を管理することが可能になるためです。

 

プロジェクトの成否を分けるクラウドベンダーのサポート

 「オンプレミス環境との接続性」にも注意すべきでしょう。ハードウェア構成やOSの種類などにより、ERPと連携しているシステムをクラウドに移行できないなどといった場合、クラウド上のERPとオンプレミス環境の他システムを連携しなければなりません。そのためのネットワークには、クラウドとオンプレミスをセキュアに接続できること、十分な帯域を確保可能であることなどが求められます。なお、NTTコミュニケーションズの「Bizホスティング Enterprise Cloud」のように、クラウド上の仮想サーバーとコロケーション上に設置した物理サーバーを連携できるオプションがあれば、仮想サーバーと物理サーバーを容易に接続することが可能です。

 ERPのクラウド移行は大規模なプロジェクトになることが多いことを考えると、導入時における「クラウドベンダー側のサポート体制」も重要なチェック項目となります。クラウドベンダーの適切な協力が得られなければ、クラウド移行プロジェクトの遂行に大きな支障が生じかねないためです。さらにERPの安定運用のために、運用フェーズ移行後のサポート内容についても確認しておくべきでしょう。

 

SAP ERPにおけるクラウド移行のポイント

 ERPにはさまざまな種類がありますが、グローバル企業の多くで採用されているパッケージ製品の1つがSAPの「SAP ERP」です。このSAP ERPのクラウド移行では、「大規模システムのクラウド構築/構築ノウハウの不足」、「アウトソーシング時のERP運用の品質・コントロールへの不安」、「基幹系システム向けの高度なインフラ基盤の構築」といった課題が露呈するケースが少なくありません。

 SAP ERPは大企業がグローバルで利用している例が多く、システム構成も大規模になりがちです。このようなシステムを適切にクラウドに移行するためには、サーバーのサイジングを適切にできること、そして、綿密な調査に基づくクラウド移行範囲の最適化が求められます。このような観点から適切な提案が行えるベンダーでなければ、クラウド移行プロジェクトをスムーズに進めるのは困難でしょう。そして、開発機や検証機のクラウド利用によるコスト圧縮や、ダウンタイムを最小限に抑えた移行方法の提案ができるかどうかもチェックすべきポイントになります。

 ERP運用の品質を担保できるベンダーであるかどうかも、選定前に十分に確認しなければなりません。たとえばITIL(Information Technology Infrastructure Library)の資格を持つエンジニアによる高度な運用の実現や、継続的な改善提案による運用品質の向上が見込めれば、安心してERPインフラの運用を任せられます。海外拠点での利用も考えれば、グローバル対応の一元的なヘルプデスクの提供も要件に含めたいところです。また、内部統制の適切性や運用状況の有効性が国際基準によって評価されていれば、IT監査対応の負担を軽減できるでしょう。

 SAP ERPの運用に耐える性能と信頼性が確保されているか、グローバル運用に対応できるワールドクラスのデータセンター基盤やネットワークを持っているかもポイントになります。特に注視したいのがネットワークで、国や地域にかかわらず、安全かつ確実にクラウドに接続できるネットワーク基盤を提供できるベンダーであれば安心できます。

 ERPの重要性を鑑みれば、バックアップ環境や災害対策のためのDR(Disaster Recovery)サイトの構築も要件に含まれるでしょう。この点においても、たとえば国をまたいだバックアップができるかなど、グローバル対応の内容が検討課題となります。

 

クラウドを利用したERPの海外展開パターン

 さて、海外の各現地法人でもERPを導入したり、利用していくといった際、検討しなければならないのは「ERP展開の形態」です。そのパターンとしては、以下のような例が考えられます。

 もっともシンプルなのは、海外拠点も日本の本社で導入したERPを利用するパターンでしょう。ガバナンスを効かせやすいメリットがあるほか、運用管理の負担を軽減できる利点がありますが、一方で海外の現地法人ごとの事情をシステムに反映しづらい、ネットワーク遅延の影響を受ける可能性があるといったマイナス面もあります。

 そこで最近増えているのが、日本と海外拠点でシステムを分けてERPを導入し、それらを連携させる構成です。たとえば、日本の本社はSAP ERP、海外の現地法人はマイクロソフトの「Microsoft Dynamics AX」を利用するといった形が考えられます。Microsoft Dynamics AXはSAP ERPよりも小規模な企業向けのERP製品で、その分導入の手間も抑えられます。SAP ERPとの連携を考える必要はありますが、海外拠点の事情に合わせてシステムを構築、運用できるのは強みでしょう。ただ、いずれのパターンであっても、グローバル展開に対応できるIaaSを選択すること、海外拠点まで含めてERPのクラウド移行をサポートできるベンダーを選定することが大切になります。SAP認定を取得しているベンダーを選定することも近道の一つです。

 次回は、基幹系システムのデータベースとして利用されることが多い、Oracle Databaseのクラウドでの利用について解説していきます。

※掲載されている内容は公開日時点のものです。
※掲載されているサービスの名称、内容及び条件は、改善などのために予告なく変更することがあります。

Bizコンパス編集部

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