クラウドERPで実現するグローバル生販在の見える化

個別最適から標準化へ、新電元工業のグローバル戦略

2017.10.20 Fri連載バックナンバー

 製造業において海外に生産拠点を求める動きが加速してから数年が経過し、いまや拠点のITシステムや基幹業務を統一・標準化し、グループ全体としての業務効率アップを図ろうとする企業が増えています。グローバルに事業を展開する新電元工業の電装事業本部では、共通のERPパッケージを各拠点に導入することにより、国内外の生産拠点を結ぶグローバルSCMの構築を進めています。導入の背景や採用されたERP、IT基盤、導入によって得られた具体的効果などを紹介していきます。

【新電元工業株式会社について】

 1949(昭和24)年に設立され、パワー半導体やスイッチング電源など、パワーエレクトロニクスを主な領域として事業を拡張してきた新電元工業株式会社(以下、新電元工業)。現在は、半導体や電装部品、電源部品などの事業を柱として、独創的な技術を生かした製品を幅広く提供しています。海外進出にもいち早く取り組み、アジア圏を中心としてグローバルに生産や販売の拠点を展開しています。半導体技術、回路技術、実装技術を併せ持つ世界でもまれなメーカーとして、環境問題への貢献をはじめ、今後の活躍がますます期待されています。

 

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個別構築されていた拠点の基幹システムを統一したい

 新電元工業の電装事業本部では、二輪車・四輪車向けの電源系電装製品をメインに製造しており、とりわけ近年は、環境に配慮した製品を数多く手掛けています。1988年、タイに生産拠点として現地法人を設立後、アジア圏に順次生産拠点を展開。現在、タイ、インドネシア、ベトナム、広州(中国)、インド、および埼玉県深谷市の株式会社岡部新電元の計6カ所で製品を製造しています。

 この6つの生産拠点は、従来個別にITシステムを構築し、基幹システムもそれぞれ現地の業務に即した形で運用されていましたが、その統一化と標準化を行い、グローバルSCMを実現するプロジェクトを2013年より始動。ERPパッケージとして「Microsoft Dynamics AX」をクラウド基盤上で稼動させ、それを全拠点に水平展開することとしました。

 電装事業本部長の新関清司氏は、その検討に至った背景や課題を説明します。

 「各生産拠点では個別にITシステムを構築しており、その国の特性や業務内容などに応じて個別に進化していました。当然、基幹システムも拠点ごとにバラバラの状態でした。それぞれの拠点では問題なく運用されていたのですが、2011年に発生した大洪水により、タイの拠点が生産不能に陥ってしまったのです。タイの生産分をほかの拠点で補わなければならないのですが、当時は各拠点の状況や生産計画などを一括して把握することが難しく、スムーズな補完ができませんでした。グループとしては非常に大きな問題ですので、それを契機に、全拠点の状況を可視化してリアルタイムに一元管理できるようなシステム構築の検討をスタートしました」

新電元工業の課題

経営や業務の視点で入念に構想定義を行う

 プロジェクトは全体を3つのステップに分け、まず「Step1」として、「グローバル拠点業務プロセスの標準化」と「経営指標に基づくグローバル共通KPI設定」を可能とする標準業務化パッケージである「グローバル標準テンプレート」の構想定義などを徹底的に検討。管理部長としてプロジェクトを牽引してきた小林隆氏は、その段階における検討のポイント挙げます。

 「最初にポリシーとなる部分を固めました。今まで各拠点でバラバラに動いていた業務をどのように見える化するかということについて、まず経営管理の視点から検討を進めました。在庫管理や原価管理、マスターデータの統一などを図ることで、各拠点のマスター登録の状態が見えてきますし、不明なコードも無くなります。そして業務システムの統一化を図った後、標準化を進めていけば、業務改善への具体的な効果が発揮されます。我々は、見える化、標準化にBCPを加え、経営や業務の視点からグローバル標準テンプレートのあるべき姿を構想していきました」

 ERPとしては、Dynamics AXを導入する方針が決定されました。管理部生産管理課の浦志竹彦氏は、「1つのシステムで各拠点の情報を横並びで把握できるような仕組みを構築したいと考えていました。Dynamics AXは、既にベトナムとタイの拠点に導入されていたため、全拠点へ導入しやすい上に、通常業務で使用しているOfficeソフトとの親和性が高いことも後押しとなりました」と、採用のポイントを説明します。

 Dynamics AXは、40の言語と137の国や地域の法制度に対応していることも大きな特長です。「既に利用を始めていた2つの国に対応したモジュールも提供されており、国ごとのカスタマイズにかかる時間やコスト面での負荷が軽減されることも重要な判断材料でした」と、浦志氏は付け加えます。

電装グループSCM構想-1

アジア地域におけるサポート体制を評価しIT事業者を決定

 Step1から、コンサルティングという形でNTTコミュニケーションズが参入しました。NTTコミュニケーションズには、2013年にベトナムの拠点においてDynamics AXを導入した実績があり、グローバルでのサポートに定評があることから、パートナーに選択されました。コンサルティングにおいては、新電元工業が抱える課題を可視化し、小林氏らの構想を実現化するための方針や具体的解決方法などを提案しています。

 2014年3月からの3カ月間で、Step1として入念にグローバル標準テンプレートの構想を定義した後、それを実現するITシステムの要件定義やグローバル標準テンプレートの開発を実施する「Step2」に移行。その際、同社はあらためてITシステムを提供するベンダーを検討しましたが、引き続きNTTコミュニケーションズが選ばれています。

 新関氏は、構想を具現化するためのパートナーを選択した理由をこう述べます。

 「Step1と同様に、Dynamics AXの導入実績があることと、我々が事業を展開しているアジア地域においてしっかりとしたサポート体制が確立されていることが主な要因です。今回導入するのは事業の根幹をなすシステムであり、『導入して終わり』ではありません。10年や20年というスパンで使っていくものですから、安心できるサポートを継続的に提供してもらう必要があります。加えて、我々の話に真摯に耳を傾け、課題や要望をよく理解し、適切な提案を返してくれるという企業姿勢も高く評価しました。もちろん他社も検討しましたが、NTTコミュニケーションズに依頼することがベストの選択だったと思っています」

電装グループSCM構想-2

BCPの視点からクラウド基盤を選択

 従来からDynamics AXを導入していたベトナムとタイの拠点では、システムはオンプレミスで構築されていましたが、今回のプロジェクトにおいては、NTTコミュニケーションズが提供するグローバルクラウド基盤である「Enterprise Cloud」上で稼動させることが選択されました。

 「最大の理由は事業継続性の向上です。我々としては、タイの洪水でサーバーが冠水して使えなくなってしまったという苦い経験があります。大規模な自然災害が発生しても基幹システムが停止しないということは、非常に大きなメリットです。またコスト面でも、長期的に見ると、クラウドの方がコストを抑制できると判断しました」と、小林氏は語ります。

 システムの要件定義などを行うStep2は、2014年12月で完了し、2015年から実際に各拠点への展開を図っていく「Step3」へと移行。国内外に6カ所の生産拠点のうち、最初の導入拠点として選ばれたのはタイでした。

 「通常は導入しやすい拠点から始めるケースが多いですが、あえて最も困難と思われるタイから着手することにしました。タイは設立が最も古く、ITシステムの個別最適化が進んでいます。一番高いハードルをクリアできれば、その後の導入は比較的容易に進められるのではと考えたのです」(新関氏)。

 小林氏は導入における苦労を振り返ります。

 「従来、現地の仕事の進め方にシステムを合わせるという考え方でシステムを運用していましたので、こちらが定めたグローバル標準テンプレートに合わせることには大きな抵抗があったようです。一部の拠点では、 この考え方を改めてもらうのに、かなりの時間を要しました。途中、頓挫しそうな局面もありましたが、我々が現地に赴くだけではなく、現地のリーダーに来日してもらい、グローバル標準テンプレート導入の意義やタイが最初の導入拠点になる意味を十分に説明し、理解を得ることができました」

在庫管理やBCPにおいて導入効果が得られる

 こうして最も困難であったタイへの導入が完了し、順次、広州(中国)、インドネシア、岡部新電元への展開が終了。現時点で4カ所の拠点において稼動がスタートしていますが、現状どのような効果が生まれているのでしょうか。

 「まず在庫管理面で効果が表れています。従来は各拠点の生産や在庫の状況を横並びで把握することはできなかったのですが、一元管理できるようになったことにより、拠点Aで不要になった在庫を拠点Bで使用するといった連携ができるようになりました。これは現時点においても、経理上かなりの効果が得られています。またBCPにおいて、本部サイドの管理面負荷が大幅に軽減されています。たとえばある拠点でトラブルが発生し生産が一時停止した場合、他拠点でカバーするために、従来ならその調整に8時間程度を要していましたが、現在はそれが10分程度で終えることができるのです。この差は大きいですね」(新関氏)。

 同社 経営企画室 情報システム 部インフラ課長の小林慎司氏は、全社のITインフラを統括的に見ている立場から、今回のプロジェクトの意義を語ります。

 「情報システム部としても各拠点の業務システムがバラバラであることを問題視していました。全社的に統一するという考え方もあったのですが、事業本部により生産している製品が異なりますので、それは困難でした。まずは事業本部単位での標準化を進めたいと思っていたところに、電装事業本部から話があったのです。全社的に見ると、標準化はまだ道半ばですが、今回のプロジェクトは社内における先進事例として、他の事業本部にも波及していくのではないかと期待しています」

 

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グローバル標準テンプレートの80%には変更を加えない

 現在は、インドとベトナムに導入を推進しており、2017年度には全ての拠点における導入が完了する予定とのこと。新関氏はグローバル標準テンプレートをベースにした今後の展開に期待を寄せます。

 「現在は生産管理にしても、在庫管理にしても、一日経った時点の結果が得られています。生産のリードタイムは、以前は“何日間”というオーダーでしたが、今は“何時間”に短縮されています。在庫管理なども、スパンが短縮されてくるでしょう。そのような状況になっても、今回導入したシステムを活用することで対応していけると思っています」

 最後に、当プロジェクトの経験を踏まえ、グローバル拠点間のITシステムの統一やSCM構築などを検討している企業に対する助言をいただきました。

 小林隆氏は、「今回のプロジェクトが成功した要因の1つとして、トップダウンであったことが挙げられます。我々本部がしっかりと方針を定め、各拠点と導入方針に対する理解の共有がされ、強い意志をもって各拠点を説得したことが功を奏しました。同時に、Step1からNTTコミュニケーションズに入ってもらって、我々がやりたいことをどのようにすれば実現できるのか、ということを徹底的に詰めたことも大きかったと思います。業務についての相談から始めて、それをITに落とし込んでいくという進め方で行いました。始めに『やりたいことは何か』ということをしっかり固めて、その実現性を見極めた上で次の段階に移行することが重要だと考えます」と、構想定義部分の重要性を強調します。

 加えて新関氏は、「グローバル標準テンプレートとして定めたものに、なるべく変更を加えないことも重要です。Dynamics AXはさまざまなノウハウを集約し、世界標準となっているパッケージであり、それをローカルでむやみに変更することは得策ではありませんし、標準化の効果も弱まるでしょう。カスタマイズすればするほど、時間もかかりますので、スケジュールに影響してきます。ですから、我々は80%の部分は決して触らないようにし、会計部分など20%は変更を加えてもよいとルールに定めました。これも導入をスムーズに進められた要因となったと思います」と、標準化を推進するポイントに言及し、話を結びました。

標準化を推進させるグローバル標準テンプレートとは(標準化すべき項目)

 すべての生産拠点にグローバル標準テンプレートの導入が完了すれば、これまでご紹介したこと以外にも、さまざまな効率化が図られていくことでしょう。その効果に大きな期待が寄せられています。

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Bizコンパス編集部

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