AIベンチャー創業者に聞く「AIの現在と未来」(第1回)

“匠の技”や経営戦略もカバーするAIの可能性とは

2017.08.04 Fri連載バックナンバー

 ビジネスの世界においてAIは実用段階に進みつつあり、さまざまな企業で成功事例が生み出され始めています。また技術の進化も相まって、既存の課題を解決するだけでなく、将来のビジネスを大きく変える可能性も出てきました。AIの研究開発における先駆者の1人であり、多くの企業においてAI活用を支援した実績のある株式会社クロスコンパスの佐藤聡氏に、最新の事例や今後の動向などについて伺いました。

 

気になる見出しをクリック

AIのエキスパートとして企業のAI活用を支援

 AIコンサルティングやパイロットプロジェクトの実施などに取り組みつつ、将来的にはAIプラットフォームの構築や、脳の情報処理をモデル化したニューラルネットワークの新たなアルゴリズムの開発を目指している、東京工業大学発のベンチャー企業が株式会社クロスコンパスです。同社の技術に注目している企業は多く、異常検知や外観検査、人動作検知など、企業から寄せられるさまざまな要望に応え、実績を積み重ねています。

 すでにAIは大きな注目を集めており、多くの企業がAIを業務で利用するための検討を進めているほか、いくつかの企業では実際に成果を挙げ始めています。しかしながら実際にAIを使って課題を解決するには、どのようなニューラルネットワークを作ればいいのかを落とし込むところが非常に難しいと、クロスコンパスの佐藤聡氏は説明します。

 「AIで何か課題を解決したいとご相談をいただいたとき、このような脳を作れば課題を解決できるのではないかと考え、学習する前のニューラルネットワークを作ります。それに対して学習用データを学習させて、学習済みのニューラルネットワークを生み出します。そして学習済みニューラルネットワークをサーバーやデバイスに入れ、実際に利用するという流れです。難しいのは、課題を解決するためにどのようなニューラルネットワークを作ればいいのかを落とし込む部分で、ここは非常に難しく、経験が求められる領域です」

ニューラルネットによる機械学習

 ニューラルネットワークを作れなければ、当然その後の学習フェーズに進むことができず、プロジェクトを動かすこともできないでしょう。この難しい領域でAIのエキスパートとしての知見を提供し、クロスコンパスでは多くの企業のAI活用をサポートしています。

独自システムをAIに置き換えて異常検知の精度を向上

 同社が関わった事例の1つとして、佐藤氏が紹介したのは製造業におけるプロセス異常検知です。その企業では、もともと手作りのシステムで異常検出を行っていました。これはセンサーから出力されたデータを独自の判別式にかけ、しきい値を超えていれば異常と判断するという仕組みです。しかし正常な状態を異常と判定する虚報が多く、さらに正常と異常を判断するしきい値を変えれば虚報は減るものの、検出されない異常が増えるというジレンマに陥っていました。

 そこでクロスコンパスでは、ニューラルネットワークの構造設計とセンサーから取得したデータや異常検知データを使った学習、その学習結果の評価というプロセスを繰り返し、学習済みニューラルネットワークを構築しました。これを利用する際、装置の近くでAIを用いるという工夫も盛り込まれました。

 「以前は離れた場所にあるサーバー側で処理を行われていましたが、そうすると細かい粒度で検証することができず、重要な情報が取れません。そこで装置の近くでAIが判断する仕組みを整えました。AIを使ったこの取り組みにより、虚報をほぼゼロにすることができたほか、発見できていなかった傾向を検知することも可能となり、従来から6倍ほどの検出率向上を達成しています」

事例1:製造業のプロセス異常検知

官能試験で人間の耳では聞こえない音をAIが検出

 さらに佐藤氏は、昨今増えている事例として製造業で行われる官能試験での異音検知を紹介しました。完成した製品の動作音をチェックし、異音は無いか、適切に動作しているかといったことを判断するというものです。

 この官能試験を人手で行う場合、当然ながら相応の経験が求められます。とはいえ人間の聴覚は加齢によって低下してしまうため、これをAIに置き換えたいというニーズが高まっています。

 そこでディープラーニングの技術を用い、入力されたデータが正常か異常かを判断できる学習済みニューラルネットワークを構築します。これを利用したところ、人間の聴覚では発見できなかった異常を検知できるようになったといいます。そもそも人間の聴覚には、加齢にかかわらず聞き取ることができる可聴域が存在し、その範囲を超える音は聞き取れません。

 しかしセンサーで得た音をディープラーニングで判断する仕組みであれば、可聴域の外側の音についても判断することが可能であり、より高精度の判断ができるようになるというわけです。この結果から佐藤氏は「従来、“匠の技”と呼ばれていたものについても、ディープラーニングを用いることによりコンピュータで実現することが可能になってきたと思います」と話しました。

事例2:製造業の異音検査

 化学プラントにおけるAIの活用も積極的に模索されています。こちらの事例では、製造プロセスにおいて薬品を投入する際、パラメータが多すぎ、その相関が分からないという課題があったと言います。「そこでニューラルネットワークを使ってモデル化し、どのパラメータが最終的な製品の品質にどう影響するのかをモデル化しました」と佐藤氏は話し、ディープラーニングを用いた手法に切り替えることができたと説明します。

事例3:化学プラント最適化

 開発中の案件の1つとして紹介したのは、加工プロセスの最適化です。これは開始時点の状態と終了時点の状態をAIに与えると、経路や計画、手順といったプロセスを生成するというものです。現在はまだ開発中とのことですが、これが実現するとAIの活用領域はさらに広がることになるでしょう。

ご覧いただくにはログインが必要です。

新規会員登録(無料)はこちら

まだ会員でない方は、会員登録(無料)いただくと、続きが読めます。

企業経営にもAIが応用される時代が到来!?

 AIのテクノロジーは進化し続けており、今後は経営などの領域においても使われる可能性があると佐藤氏は指摘します。

 「すでに完全情報ゲームである囲碁や将棋では人間をAIが打ち負かしていますが、最近になって不完全情報ゲームであるポーカーでもAIが圧勝しています。戦略という部分にかかわる不完全情報ゲームでも人間に勝ったということは、企業経営において戦略を立案して実行する、そういった部分にもAIは使えるようになってきたということではないかと考えています」

 囲碁や将棋、あるいはチェスは完全情報ゲームと呼ばれ、自分と対戦相手は同じ情報を共有して戦います。一方、不完全情報ゲームは相手の持ち札が見えないなど情報が共有されていないため、相手の手札を予想しつつ自分の打ち手を考えるといったことが求められます。この領域でもAIが人間に勝っているのであれば、同じく不完全情報ゲームなどと捉えられる経営などにも応用することができるのではないかというわけです。

 最後に佐藤氏は「現時点では、ディープラーニングがなぜうまく動いているのかはよくわかっていません。アメリカなど海外の国との競争を考えたとき、この部分を解き明かし、量ではなく質の勝負に持ち込むことが大事じゃないかと考えています。そこで我々は知の専有ではなく、関心を持つ人々が参画して共有・共創・交換することによって社会発展するモデルを構築していきます」と抱負を述べました。

 AIはすでに課題を解決するためのソリューションとして活用され始めており、また技術の進化によってその適用領域は拡大し続けています。このAIがもたらす極めて大きなメリットを考えると、自社の業務への応用を考え続けることは決して無駄にはならないでしょう。

※掲載されている内容は公開日時点のものです。
※掲載されているサービスの名称、内容及び条件は、改善などのために予告なく変更することがあります。

このテーマについてもっと詳しく知りたい

Bizコンパス編集部

Bizコンパス編集部

このページの先頭へ
Bizコンパス公式Facebook Bizコンパス公式Twitter