人工知能(AI)はビジネスにどう活用されるのか(第11回)

AI活用で事前に製品の品質異常を予測する三井化学

2017.10.18 Wed連載バックナンバー

 AI、IoTの活用方法として期待されているものの1つに、工場やプラントにおける機器の「故障予知」や「異常検知」が挙げられます。各種センサーからネットワーク経由でデータを収集し、分析することで機器の故障を予知したり、異常を検知したりするというものです。こうしたAIの活用にチャレンジし、大きな成果を生み出している三井化学の取り組みについて紹介します。

【三井化学株式会社について】

 三井化学株式会社は、自動車材料を中心とした「モビリティ」、メガネレンズ材料や歯科材料、紙おむつ用の不織布などの「ヘルスケア」、農薬、包装材料等の「フード&パッケージング」、フェノール、ポリオレフィンなどの「基盤素材」といった事業領域を中核に、近年はエネルギーや農業、医療、IoTなどの新しいソリューションを創出する「次世代事業」にも注力しています

 

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グローバル市場で生き残るため生産現場のデジタル化が急務になっていた

 創立以来、さまざまな化学製品を開発・提供してきた三井化学。現在、「モビリティ」「ヘルスケア」「フード&パッケージング」「基盤素材」といった領域で事業を展開しています。

 「近年グローバルの製造業では、ITを駆使した生産現場改革が急速に進んでいます。我々日本の製造業も、IoTビッグデータといった技術を活用し、現場のデジタル化を推進して競争力を高めていくことが、市場で生き残るためにはもはや不可欠です」と三井化学の松尾英喜氏は語ります。

 そこで、同社は生産現場のIT活用を推進する専門組織である「生産技術高度化推進室」を2017年4月に新設し、デジタル化の取り組みを強化してきました。なかでも特に注目しているのが、近年目覚ましい進歩を遂げつつあるAI技術であるといいます。

 「これまで日本の化学産業は経験豊富な熟練オペレーターの“匠の技”に支えられている部分が多く、その方たちによって、安全な操業、安定な品質が保たれていた部分があります。現在、オペレーターの高齢化が進む中、現場に“暗黙知”として存在するノウハウを標準化・デジタル化し、いかに次世代に継承していくかが重要な課題となっています。その際、AIを活用することで、スムーズな継承を実現できるのではと考えています」と松尾氏は説明します。

 実は、同社は以前から、AIの要素技術の1つであるニューラルネットワークの活用検証を進めてきました。具体的には、プラント内の温度計や圧力計、流量計などから取得したデータをニューラルネットワークで処理し、製造プロセスの改善と品質の安定化に役立てるというもの。この取り組みは、ニューラルネットワークが手本にする「教師データ」の作成に多くの労力が必要なことや、製造プロセスが変わるたびに予測モデルを作り直さなければいけないといった課題にぶつかり、実用化には至っていませんでした。

 一方、近年はAIが急速に進化し、データと方針を与えれば、AIが自ら学習するディープラーニング技術も登場しています。「この技術を使えば、当時の課題を解消できて、AI活用が実現できるのではと考えました。さらに、当時と今では、周囲のIT環境も大きく変わっています。今こそ、AI活用に再挑戦する好機だと感じたのです」と松尾氏は振り返ります。

ディープラーニング技術により51種類のデータから品質を予測

 AI活用の取り組みを推進するにあたり、同社はソリューションパートナーの選定に取りかかります。複数ベンダーを検討した結果、NTTコミュニケーションズを選定。その理由について、松尾氏は以下のように語ります。

 「NTTグループ内に研究組織を抱えており、AIエンジン『corevo(R)』*による豊富な知見と技術力を備えている点が魅力でした。また、製造業のAI活用事例はまだ組立系がほとんどである中、当社のような装置産業の世界にも積極的に挑戦したいという熱意が感じられました。そのことも、後押しになりました」

 同社は、実際のガス製品製造工程を実験場として、ディープラーニングの実証実験に着手。原料の種類、反応炉の状態といった製造プロセスのデータを基に、製品の品質を高精度に予測することを目的として、プロジェクトをスタートさせました。

 「熟練のオペレーターは、各プロセスのデータを見ながら、製品の品質を最適化するための調整を行っています。そのノウハウをAIに学習させることで、オペレーションと製品の品質の標準化につなげる狙いです」(松尾氏)

ディープラーニングによるガス製品の品質予測

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ガス製品の濃度を高精度平均誤差3%という精度で予測

 プロジェクト開始から現在まで、同社はさまざまな予測モデルによる実験を実施してきました。その結果、ガス製品の品質を大きく左右する濃度を平均誤差3%という高精度で20分前に予測できるようになりました。

 同社がNTTコミュニケーションズに提供したプロセスデータは、プラントに投入される原料の温度や圧力、流量、および反応炉の設定値、生産されたガスの濃度など全51種類。どれが何のデータかは一切伝えず、重複排除などの事前のクレンジングも行わない状態でデータを渡したが、それでも高精度な予測が行えたことは、大きな驚きだったといいます。

 「実際のデータ投入や試行を担当してくれたNTTコミュニケーションズの技術力があってのことですが、あらためてAI自体も非常に進化していると実感しました。データを人の手で事前に整える必要がなければ、運用工数が削減できるほか、専門的な知見がなくても、幅広い領域で汎用的にAI活用が実現できるようになるでしょう」と松尾氏は大きな可能性を感じています。

 今後は、今回作成した予測モデルを引き続きチューニングしながら、最終的には実際に各プラントへ実装していく計画とのことです。

今後はセンサー類の異常検知・予知保全に向けた可能性も

 今後の展望について、「今回のような高精度な予測ができるのであれば、より幅広い用途にAIを適用していくことも十分視野に入ってきます。たとえばセンサーや測定機器の異常/故障検知、メンテナンス時期の最適化といったことは、遠くない将来に実現できるようになるでしょう」と松尾氏は述べます。

 とはいえ、化学プラントでは、実際に機器が故障する頻度は少ないため、異常時のデータをAIに与えることは簡単ではありません。そこで、まずは平常運転時のデータを学習させ、その差から異常を検出するといったアプローチが必要になります。その際も、NTTコミュニケーションズの知見が役に立つのでは、同社は考えています。

 今回の同社の取り組みを通じて、デジタル化に取り組む企業に向けてアドバイスをいただきました。

 「当社のデジタル化の取り組みは、生産技術高度化推進室が主導で推進していますが、一番重要なのは担当者の思いとスキルではないでしょうか。実際に展開していくのは現場のエンジニアであり、彼らの協力や知識をいかに引き出せるかが最大のポイントとなります。そのためには、まずは成功事例をつくり、組織内に『自分たちもできる』といった意識を醸成することが重要です。また、推進にあたっては経営者を含むマネジメント層の協力も必須です。取り組みを理解して、必要なリソースを投入することも重要になってきます」

 最後に、松尾氏は同社が目指す、工場のあるべき姿について語ります。

 「たとえ、AIがどれだけ進歩してもプラントは無人化にはならないでしょう。機械任せでは、プラントの進歩はとどまってしまいますので。当社が目指すのは、『人と機械が調和する次世代工場』です。それを実現するためには、単に技術を導入するだけではなく、データの見方や取り扱い方などを、しっかりとプロセスエンジニアに教育することが欠かせません。今後は、そうした側面でも、NTTコミュニケーションズにはご協力していただきたいと思います」

*:「corevo」は日本電信電話株式会社の登録商標です。

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Bizコンパス編集部

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