徹底解説!基幹系システムのクラウド移行(第15回)

クラウド化で業務革新を推進するサンポットの挑戦

2017.05.31 Wed連載バックナンバー

 サンポット株式会社は、安定したネットワーク基盤を整備し、基幹系システムをクラウドへ移行しました。その中には、一般的にクラウド化が困難とされてきたIBM Power Systems上で運用するシステムも含まれており、クラウド化によって安定運用だけでなく、パフォーマンス向上も実現しました。そして同社はクラウド化をさらに進めることで、さまざまな業務革新に取り組んでいきます。「できることは最大限、自社でやる」という指針の同社が推進するクラウド戦略の、本当の狙いとは何なのでしょうか。

【サンポット株式会社について】

 「快適性と健康生活環境を創造する企業」を目指し、環境性を重視した製品・システムの研究開発を積極的に展開するサンポット株式会社。同社は家庭用ストーブから大規模施設用冷暖房システムまで、幅広いニーズに対応した製品・サービスを世に送り出しています。また再生可能エネルギーのバイオマスを活用したペレットストーブの普及など、人々の快適を支える地球環境に配慮した事業展開にも注力しています。

 

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週に数件あったトラブルがゼロに!――クラウド化を前提にネットワーク基盤を整備

 サンポットは、2006年に埼玉県川越市にあった本社を工場のある岩手県花巻市に移転。従来のシステム基盤には、2つの懸念点がありました。同社情報システム課の伊藤孝市氏は、1つ目は拠点間を結ぶネットワーク環境だったと振り返ります。

 「当時、埼玉を中心としたハブ&スポーク型で構築されたインターネットVPNを利用していたため、通信品質が不安定でトラブルが頻発していました。また基幹系システムがオフコンからWebアプリケーションに切り替わり始めており、今後拠点間でのやり取りや共有するするデータ量が増えるのは明らかでした。そのため、安定したネットワークの刷新が求められたのです」

 2つめは、東日本大震災で得た教訓に由来します。伊藤氏は「幸い私たちの拠点に大きな被害は無かったのですが、自社でサーバーを保有するオンプレミスからクラウドへとリソースをシフトすることが事業継続の観点から必要だと考えたのです」と説明します。こうしたリソースの移行を進めていく上でも、広帯域、高品質なネットワーク環境の整備がマストの条件になっていました。

 同社はNTTコミュニケーションズの「Arcstar Universal One」を選定し、ネットワーク基盤を刷新します。

 伊藤氏は「サービスの選定理由としてまず挙げられるのは、通信品質の高さです。一般拠点間はベストエフォート回線、主要拠点間は帯域を確保するギャランティ回線を適材適所に組み合わせられること、さらにすべての回線が冗長化されていることが選定のポイントでした。東日本大震災で仙台拠点の通信が不通になった際、暫定的にモバイル回線を利用したことがあります。復旧の早いモバイル回線をバックアップに使えることも評価しました。さらに、ネットワークのみならず、つながる先のクラウドやデータセンターといった各種サービスをワンストップで提供してもらえることが、一番の選定理由です」と語ります。

 こうして同社ではネットワーク更改をトラブルなく完了させました。伊藤氏は「新たなネットワーク環境は非常に安定しており、これまで大きなトラブルは一度もありません。従来は週に数件あった問い合わせも、いまではほぼゼロです。また、ネットワークと連携する多様なサービスが利用できるため、新しい取り組みにも迅速に対応できる環境が整備できました」と評価します。そして新たなネットワーク環境を手に入れた同社では、基幹系システムのクラウド移行をはじめとする、さまざまなチャレンジをスタートさせました。

IBM iを含む基幹系システムをクラウドへ――他社サービスと比較したポイントとは

 同社では、IBM Power Systems上で稼働してきた基幹系システムを、Webアプリケーションベースの新基幹系システムへと移行を進めており、移行できない機能はIBM Power Systems上で継続する形をとっていました。

 クラウド移行にあたり、同社はまず、新基幹系システムのオンプレミスサーバーをデータセンターに収容。次いで、IBM Power Systemsとその周辺機器を除く、主なオンプレミスサーバーを、共有型と専有型をハイブリッドで利用できるクラウド基盤「Enterprise Cloud」へと移行しました。

 ところが、オンプレミスとして残置したIBM Power Systemsはすでに10年以上使用されており、老朽化による故障のリスクが高まっていたのです。またIBMが保守サポートの打ち切りを発表したこともあり、可及的速やかに対策を講じる必要がありました。とはいえ、急にクラウドへ移行するのは技術的に困難であり、クラウド化推進の流れの中で新たなオンプレミスサーバーを購入することは検討対象外でした。そんな矢先、Enterprise Cloudのオプションサービスとして「Power オプション」が登場。まさに渡りに船とばかりに、同社ではPower オプションへの検討を開始し、無事移行を終えたことで難局を乗り切りました。

 IBM Power Systemsのクラウド移行にあたり、伊藤氏は「数社から提案を受けましたが、NTTコミュニケーションズ以外のベンダーは、ホスティングの切り売りだったり、冗長化がなされていなかったりと、基幹系システムを運用するには不十分なものでした」と検討過程を振り返ります。

 「当初は古いコードでもきちんと動くのか、という不安がありました。しかし、Power オプションはWindows/Linuxが低遅延で併設できたので、問題なくスムーズにEnterprise Cloudに移行できました。たいした作業もなかったと記憶しております。移行後も動作は安定しており、副次的な効果として処理速度も上がっています」と伊藤氏は評価します。


サンポットのこだわり「すべての手綱を手放さないこと」

「一連の作業をすべて委託するとコストがかさむため、できることは極力自社内で対応することにしました。本社・工場は郊外にあるため、駆けつけ対応に時間がかかるロケーションでもあり、トラブルが起きたときの迅速な対応を考えると自社内にスキルを蓄積すべきと判断したのです。初期段階は情報収集など苦労の連続でしたが、そうした経験の積み重ねが現在の安定したシステム環境の下支えになっています」(伊藤氏)

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クラウド化によりメール環境が劇的に改善!ほぼ容量無制限のメールサーバー

 基幹系システムのクラウド移行と並行して、同社では社内グループウェアをクラウド型サービス「Office365」に移行。外回りの多い営業スタッフにタブレットを配布し、モバイル接続を含めたインターネット環境の見直しなど、コミュニケーション面からの事業改革も図っています。

 伊藤氏は「とりわけメール環境が劇的に改善されました。従来はメールサーバーの容量が少なく、メールが送信できないトラブルが頻発していましたが、ほぼ容量無制限の現在は使いやすさもあって、社内の利用頻度は上がっている状況です。もちろんトラブルに関する問い合わせもほとんどありません」と説明します。

 続けて、同情報システム課の砂森賢正氏は「メール、スケジュールなどは活発に利用されている状況ですが、まだOffice365の一部が利用されているに過ぎません。今後は情報システム課が先導して、各部門で最適な使い方ができるよう社内的なリテラシー、スキルアップに向けた施策も進めていきたいと考えています」と展望を明かします。

 砂森氏は、現在のクラウド環境に対する印象と、利用者側からのメリットを、こう評価しました。

 「クラウドへ移行した開発環境を利用していますが、以前のオンプレミス環境と変わらない感覚で利用できています。また、現在のクラウド基盤はパフォーマンスが高いため、以前は数時間かかっていたサーバーの立ち上げが数分で完了するようになり、非常に使い勝手がよくなりました」

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クラウドのメリットを最大限に活かす!IoTの活用も視野に

 基幹系システムから始まった同社のクラウド移行は、クループウェアの更新により業務効率化を達成。その後もWeb-EDIの活用により社外取引先との受発注業務の効率化、在庫の最適化などを実現しています。そして現在、同社が計画しているのがIoTを活用した高付加価値な製品・サービスの提供により、システムの軸足を顧客にまで伸ばすことです。

 伊藤氏は「まだ企画の段階ですが、IoTに高い関心を持つ技術部門と一緒に大規模施設用暖房システムの遠隔制御し、異常を検知して故障する前にメンテナンスを行える仕組みを考えています。こうしたIoT実装に向けたアプリケーション開発などが、これからのミッションです」展望を語ります。クラウド移行によりシステム運用の負荷が軽減された分、全力で“攻め”の業務に注力できる環境が実現したのです。

 またタブレット、モバイル回線などを活用して、オフィスに縛られないワークスタイルの実現も視野に入れていると語るのは、同社管理部部長の市原義昭氏です。

 「当社は結婚、出産後の女性社員の定着率が高く、現在でも働きやすい環境にはあると思います。しかし、今後の労働人口減少に伴う人手不足を見据えると、育児や介護と仕事の両立を図るための施策の必要性を感じます。岩手は大雪でも交通がマヒすることはまずありませんが、遠方から通う社員は通勤時間が長くなります。そうした状況にも臨機応変に対応できる在宅勤務の制度化について、今後はIT環境の整備を含めて取り組んでいくつもりです」

 こうした同社の事業展望を支えているのは、安定したネットワーク環境上に構築されたクラウド基盤にあることは言うまでもありません。伊藤氏は「現在、主要なリソースはクラウドやデータセンターへの移行が完了しているため、以前のように停電やメンテナンスなどで使えなくなることはありません。ネットワークやクラウドをアウトソースするメリットは、冗長化された高品質な環境のもとで継続的にサービスが利用できるところにあります。自前でやると工数のかかるインフラ周りはアウトソースしつつ、できることは自社で行うことでコストが抑えられ、迅速なトラブル復旧も可能になります。ソフトウェア面での対応に注力できるからこそ、IoT対応などの新たな発想も生まれてくると思うのです」と結びます。

 煩雑なシステム業務をアウトソースすることは、業務負荷を軽減するためには正しい選択ですが、過度の委託は上策ではない。多少の苦労は伴っても手綱は離さないことが、サンポットのIT基盤移行の考え方と言えるでしょう。

 

 

 

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Bizコンパス編集部

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