2017.12.05 Tue

「脳を騙す」ことで人類のコミュニケーションは変わる

株式会社ミライセンス 代表取締役 香田 夏雄 氏

 「ハプティクス」という言葉をご存知だろうか。人間に振動や動きを与え、触覚を通じて情報を伝達するテクノロジーのことで、VR(バーチャルリアリティ)の世界をよりリアルにする技術として注目されている。

 茨城県つくば市のベンチャー企業「株式会社ミライセンス」は、このハプティクスの世界を変える新たな装置を開発した。物理学をベースにした従来のハプティクスとは異なる、脳科学をベースとした「3D触力覚技術」である。

 通常、人間がモノに触れる際は、「力覚」(引っぱられる・押される)、「圧覚」(硬さ・柔らかさ)、「触覚」(表面の凸凹やざらざら感)の3つの感覚が組み合わさり一つの感触が生まれる。3D触力覚技術ではこの3つの感覚を同時に表現することができる世界初の技術だ。

 3D触力覚技術では、小型デバイスを使って指先に特殊な波形の振動を与えることで、脳を錯覚させ、触感や手応えなどの体感をリアルに表現。同技術は、ゲームやエンターテインメント、携帯端末やタッチパネル、ロボット、先端医療など、幅広い分野へ応用できるという。

 この技術をベースにした製品展開を進めているのが、株式会社ミライセンスを率いる代表取締役の香田夏雄である。彼はいかにして、3D触力覚技術にたどり着いたのだろうか。

 

ゲームを開発して1万円をもらう中学生

 1968年に生まれた香田は、子供の頃からコンピュータに親しんでいた。父親が電機メーカーに勤務していたため、当時としては珍しく、小学生の頃から自宅にマイコン(マイクロコンピュータ)があった。ボード型のトレーニングマイコンという機種で、操作にはマシン語(機械語)という難解な言語を駆使しなければならなかった。

 「当時はまだC言語やJava、Basicなどもなかったので、マシン語で直接コンピュータを動かすしか方法がなかったんです。本やマニュアルを読み漁りながら、ほぼ独学でマイコンをNゲージ(鉄道模型)につなげ、自動で動かすくらいまでマスターしました」

 中学に入ってもパソコン三昧で、迫ってくる敵を打ち落とすインベーダーゲームのようなゲームも作れるほどの技術を持っていた。『マイコンBASICマガジン』(電波新聞社)という雑誌に投稿したところ、見事掲載され、1万円ほどのお金をもらったこともあった。

 その後、筑波大学第三学群情報学類(情報科学専攻)に入学。当時はUNIXが台頭し始め、大学構内でも機材やシステムの大規模な移行が進んでいた。そのため、今まであった大型のコンピュータは用済みになっていたが、香田はこれに目を付けた。

 「ある日、教授に頼んで、誰も使わない大型コンピュータを使う許可を得ました。当時の国内の最高レベルの速度の大型コンピュータを一人で使って、普通機器では処理できない実験を繰り返しました」

 香田はこうした実験を、何に使えるのか想像せずに始めていた。香田の心を動かしていたのは、新しい技術をどんどん吸収したいという衝動だけだった。

 

「香田、なぜ諦める。なぜ粘らない」

 しかし、実験に没頭しすぎたため、就職活動に出遅れてしまった。周囲を見渡すと、友人たちはみな、企業への入社を決めていた。

 「そんなとき、面白い会社があるという噂を聞き、興味を持ったのがソニーの木原研究所でした。今でいう社内ベンチャーです。当時、最先端の技術であった三次元コンピュータグラフィクス(3DCG)の研究開発を手掛け、世界でトップを競っていて、これはすごいと思いました」

 そのころは、バーチャルリアリティという言葉がメディアに登場するようになり、3DCGはそれを支えるコア技術になるといわれていた。ソニー木原研究所に興味を持った香田は、見事内定を勝ち取り、入社した。

 「ソニー木原研究所は優秀な先輩が多くて、刺激的な会社でした。企画を立てて先輩や上司に見せても、たいていNGを食らいました。ヘコんでいると、先輩から『香田、なぜ諦める。なぜ粘らない』と叱責され、そこで『粘りに粘って粘り尽くす』考え方や行動を叩き込まれました」

 ソニー木原研究所では3DCGの研究開発や、ゲーム機器や3次元カーナビなどの開発プロジェクトに参加。15年もの間在籍したが、香田のやりたいことはどんどん膨らんでいき、やがて独立を考えるようになる。

 2007年、ソニー木原研究所を退職し、「ヒュージ・スケール・リアリティ」という会社を創業、都市景観などをCGで素早くレンダリング(生成)する技術をつくり出す。カーナビの3DCGに用いられるようになったが、2010年には国内の地図開発会社に同事業をあっさりと売却する。

 次に香田が取り組んだのが、3DCGの映像制作だ。友人のデザイナーと「インテグラルビジョン」という会社を立ち上げ、有名なハリウッド映画や日本のテレビCMのCG映像を数多く手掛ける。

 「仕事は楽しかったのですが、段々テクノロジー的なイノベイティブの面で、物足りなさを感じるようになりました。次第に、この世界はもうやり切ったかなぁと感じるようになったのです」

 香田とハプティクスの出会いは、そんなある日に訪れる。

 

触覚は脳で感じるから、脳を騙せばいい… 続きを読む

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香田 夏雄(こうだ なつお)
1968年、東京都に生まれる。1993年に筑波大学第三学群情報学類(情報科学専攻)を卒業後、株式会社ソニー木原研究所に入社。3DCG技術やVR・AR(拡張現実)技術等の研究開発に従事。2007年に退社した後は、3DCGやロボティクス、医療映像などさまざまな技術系ベンチャーの起業に参画する。2014年に株式会社ミライセンス設立、現在に至る。

株式会社ミライセンスについて
■ 事業内容3次元触力覚技術の研究開発事業/3次元触力覚技術の商用化事業/3次元触力覚技術を応用した各種サービスの運営事業
■ 設立年月2014年4月1日
■ 本社所在地茨城県つくば市梅園1-1-1 産総研つくば中央第一事業所内
■ ホームページhttp://www.miraisens.com/ja/

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