2017.03.14 Tue

クラフトビールの立役者がV字回復を成し遂げた秘訣

株式会社ヤッホーブルーイング 代表取締役社長 井手 直行 氏

 若者の酒離れが叫ばれ、ビール業界も苦戦を強いられている中にあって、12年連続で増収増益を続けるビールメーカーがある。長野県佐久市の醸造所を拠点にクラフトビール(小規模の醸造所で造るビール)を造り続ける、ヤッホーブルーイングだ。

 1997年に星野リゾートの代表・星野佳路氏の手により創業した同社は、創業時からのブランド「よなよなエール」をはじめ、「インドの青鬼」「水曜日のネコ」など、個性的なネーミングとパッケージデザインが印象的な15種類以上のラインナップを展開している。そのいずれもが、国内で主流の「ラガービール」ではなく「エールビール」である。一般的に、ラガービールは爽やかな喉越しが特徴なのに対し、エールビールは奥深い香りや味わいが特徴といわれている。

「ビールというと3-4度に冷やして一気に飲むものと思われがちですが、エールビールはコクと香りを感じるために少し冷やす程度の13度前後が飲み頃で、また時間をかけてじっくり味わいながら飲むことのできるビールなんです」

 熱心に説明する井手の表情は、やり手の経営者というよりも、美味い酒を人に勧めずにはいられない、気さくな酒飲み仲間のようだ。

 

フロッピーディスクドライブの開発に携わった技術者が「自然」に誘われるまで

 井手は1967年に生まれ、福岡県の郊外で育った。当時はまだ宅地開発が進んでいなかった家の周囲の野原を、勉強そっちのけで自由にかけまわる活発な少年だった。中学生になると、兄の影響からラジオから流れる音楽に興味を持ち、洋楽に傾倒していく。高専に進学したのも、音楽好きがこうじてオーディオ機器にも関心を抱くようになったからだ。

 ロックミュージックに浸る高専時代を過ごした井手は、卒業後、オーディオ機器で名高い老舗電気機器メーカーへと入社した。しかし配属されたのは、同社の主力業務のひとつであったPC周辺機器部門だった。

「もちろん行きたかったのはオーディオ部門でしたが、高専の先生から『なんでもやったほうがいいぞ』と言われていたので、そのまま入社時に『なんでもやります』と言ってしまいました(笑)」

 もっとも当時、オーディオ部門は下降線を辿っており、逆にPC周辺機器部分は伸び続けていた。5インチFDD(フロッピーディスクドライブ)のシェアで世界一を獲得するなど忙しい部門にあって、井手はエンジニアとして生産技術に邁進。5インチよりもさらに小さい3.5インチFDDの生産技術にも携わった。

 電気機器メーカーで活躍を見せた井手だが、時間に追われ続ける都会での生活の中で、自然への憧憬が募り、同社を5年で退職。自然に貢献したいという思いから、環境マネジメントの会社に転職した。しかし、理想とのギャップを感じ、その会社も半年ほどで退社してしまった。

 離職中、井手はふとバイクで北海道へと旅立った。雄大な北海道の大自然を自由に旅しながら、多くの人々との出会いを重ねたことで、「自分は人も自然も大好きだ」と身に沁みてわかった。

「自然そのものを仕事にすることは難しいかもしれないが、それなら自然に囲まれた土地で、人と一緒に働こうと思いました」

 自然豊かな北海道と長野を移住候補として、その地で人に関係する仕事を探していたところ、軽井沢にある小さな広告代理店の営業職を紹介される。営業は未経験だったが、すぐさま引っ越すこととなった。

 

地ビールブームの光と影

 広告代理店の個性的な経営者と何度も意見をぶつけ合いながら、井手はだんだんと営業マンらしくなっていった。軽井沢に来て3年ほど経った頃、営業先で出会ったのが、星野リゾートの星野佳路氏だった。当時は星野リゾートもまだ小さな会社で、仕事で星野と頻繁に話すようになり、だんだんと打ち解けるようになっていった。

 そんなある日、星野氏から「一緒にビール会社をやらないか」と声がかかる。星野氏の優秀さを実感し、人間性にも惹かれていたうえ、何よりもお酒全般が大好きだった井手は、新しいビジネスにワクワクしながら誘いを受けた。こうして井手は1997年、ヤッホーブルーイングが創業した年に入社する。

 事業は順調そのものだった。当時は7人の小さな会社だったが、1994年の酒税法改正による規制緩和で地ビールブームが起きていたこともあり、売上は1999年までうなぎのぼりに上昇を続けた。

 誰もがこのまま成長していくものと信じていたが、地ビールブームが終焉を迎えた1999年をピークに、その後は数年間にわたって業績が下がり続けてしまう。… 続きを読む

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井手 直行(イデ ナオユキ)
1967年、福岡県出身。1988年3月国立久留米高専電気工学科卒業。大手電気機器メーカーにエンジニアとして入社。広告代理店などを経て、97年ヤッホーブルーイング創業時に営業担当として入社。2004年楽天市場担当としてネット業務を推進。看板ビール『よなよなエール』を武器に業績をⅤ字回復させた。全国200社以上あるクラフトビールメーカーの中でシェアトップ。前期まで連続増収増益。08年より現職。著書に、『ぷしゅ よなよなエールがお世話になります』(東洋経済新報社)

株式会社ヤッホーブルーイングについて
■ 事業内容ビール製造販売
■ 設立年月1996年5月
■ 本社所在地長野県軽井沢町
■ 資本金1000万
■ 従業員数134名
■ 業種ビール製造販売
■ ホームページ

http://yohobrewing.com/

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