2017.01.24 Tue

“銀座産”の野菜を提供する文房具専門店の狙い

株式会社 伊東屋 代表取締役社長 伊藤 明 氏

 オフィスの仕事道具の主役がPCとなった現代、文房具を小売するというビジネスは、ネット通販などのデジタル化の波も加わり、国内では大規模な文房具店の数も少なくなっている。しかし、東京・銀座には、今もさまざまなジャンルの老舗有名店が立ち並んでいる。

 文房具・画材用品の専門店、「伊東屋」も、そのひとつである。同社は1904年、東京・銀座3丁目に「和漢洋文房具・STATIONERY」の看板を掲げて創業して以来、一貫してこの土地とともに歴史を歩んできた。

 伊東屋は、2015年6月16日に銀座本店を新装オープン。総床面積約4,200平方メートル、全12フロアの店舗へと生まれ変わった。新店舗は、文房具売り場のほか、野菜工場やアメリカンスタイルのカフェ、ビジネスラウンジ、多目的ホールを併設するなど、文房具店のイメージとは異なる新機軸も打ち出している。野菜工場では、ルッコラやフリルレタス、ケール、ミントなどが完全無農薬で栽培されており、その管理は社員の手で行われている。そして収穫した“銀座産”の野菜は、カフェのサラダなどで提供されている。

 こうした斬新な試みを含む新店舗のコンセプトについて、代表取締役社長の伊藤明はこう説明する。

「今は、買いたいものがはっきりしていれば、ネット通販を使うのが主流になりつつあります。デジタル化も進み、従来の文房具は、もう仕事道具のメインストリームとはならないでしょう。そこで、店舗でパーソナルな“もの”を買う行為の本質はどこにあるのかと突き詰めた結果、心地よい場所で、何かいいものはないかなと楽しみながら、自分が楽しめるような道具を探すことだという結論に達したのです。新店舗には、そんな思いを反映しています」

 

自動車の絵ばかり描いた少年時代

 伊藤は1964年、伊東屋創業一家に生を受けた。文房具・画材店の息子にふさわしく、絵を描くのが大好きで絵画教室にも熱心に通った。

 特に、熱心になっていたのが、車の絵だった。慶応幼稚舎5年生(小学5年生)で、2人の姉とともにアメリカでホームステイを経験した時、街を走る1969年型のフォード・マスタングに一目惚れした。“アメ車”を象徴するそのフォルムに魅せられて以来、自動車の絵ばかりを描くようになった。

 絵の“師匠”となったのが、先々代の社長である父親だった。午年の年賀状に、横から見た馬の絵を描こうとすれば、「そんな構図は誰にでも描ける。真正面から描きなさい」と難題を突きつけられた。厳しくはあったが、父親は伊藤にとって、誰よりも彼の絵を理解してくれる鑑賞者でもあった。父は伊藤が小学6年生の時に亡くなったが、この頃から、伊藤は本気でカーデザイナーを志すようになっていく。

 伊藤は中学生時代からアメリカのデザイン学校に通うための勉強を始め、高校3年生では1年間、同国での交換留学も経験した。そして1991年に慶應義塾大学法学部を卒業すると、ついに念願が叶い、アメリカのアートセンターカレッジオブデザインへと入学して工業デザインを専攻する。

 カーデザイナーへの道を歩み始めた伊藤だったが、その途中で、自動車デザイン科からプロダクトデザイン科へと転科する。

「学校で本格的に学ぶうちに、自動車のデザインで造形のベースをつくるのは、デザイナーではなく、エンジニアであることを理解しました。この頃には将来、伊東屋へ帰るつもりだったこともあり、そこでも役に立つであろうと考え、プロダクトデザインに転科しました」

 

常連客との口約束に危機感を覚える

 伊藤はアメリカから帰国した後、1992年に伊東屋へと入社する。創業家の御曹司であり、社長を務めるのは自身の叔父であるという環境だったが、幹部候補生のような待遇ではまったくなかった。他の同僚と同じ新卒の社員として、コピーとりをはじめ、さまざまな雑用に追われる日々を過ごすこととなった。

「“法学部ではゼミ代表を務め、アメリカで工業デザインも学んだのに”と、当初は不満もありました。しかし今振り返れば、そこで色々と面白い体験ができましたね」

 そのときの体験から、伊藤はある革命を起こすことになる。伊藤がコピーサービス・コーナーを担当していた1990年代半ば、近辺の百貨店や広告代理店の広告担当者が頻繁にコピーをとりに訪れていた。その中には、売り場責任者との口約束で特別に割引料金のサービスを受ける常連客もいた。そのサービスを受けている1人が、ある日、… 続きを読む

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伊藤 明(イトウ アキラ)
1964年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、アートセンターカレッジオブデザイン(米国)で工業デザインを専攻、1991年卒業。1992年株式会社伊東屋入社、2005年代表取締役社長就任。企業経営のかたわら、伊東屋オリジナル商品開発に携わる。2007年より銀座通連合会常務理事、2009年より全銀座会催事委員会委員長、2012年より日本専門店協会理事。日本デザイン振興会、丸の内ブランドフォーラム等で講演。2016年より東京商工会議所中央支部評議員。

株式会社 伊東屋について
■ 事業内容事務用品、文房具その他の物品の販売製造加工、卸売、委受託販売及び輸出入
■ 設立年月明治37年(1904年)6月16日
■ 本社所在地東京都中央区銀座2-7-15
■ 資本金1億円
■ 従業員数611名
■ 業種小売業
■ ホームページ

http://www.ito-ya.co.jp/

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