2015.05.12 Tue

“アジアで際立つ北海道”をつくる地域メディアの力

北海道テレビ放送株式会社 代表取締役社長 樋泉 実 氏

面白いこと、楽しいこと、興味の赴くままに

 1996(平成8)年より放送をスタートしたバラエティ番組「水曜どうでしょう」をご存じだろうか。北海道のローカル番組ながら口コミやインターネットなどでファンを拡大し、今もなお全国各地で再放送されている。DVDや関連本、ステッカー、キーホルダーなどの番組グッズも発売され、ファンイベントには全国から約5万人が北海道を訪れる。この大ヒット番組の制作を手がけているのが、北海道テレビ放送(以下、HTB)だ。

 一方でHTBは、1997(平成9)年より、衛星放送を通じて台湾を中心としたアジアに向けて、北海道の魅力を伝える情報番組「北海道アワー」をスタート。放送開始以降、北海道を訪れる台湾人観光客数は5倍以上に伸びた。総務省は同番組を「道内観光産業が1兆円規模から2兆円規模に成長した原動力の一つ」と紹介し、アジア地域で北海道ブランドが確立された一因と評価している。

 こうしたHTBのユニークな取り組みを先導してきたのが、現社長の樋泉実だ。

 1949(昭和24)年、樋泉は山梨県甲府市に生まれ、ブドウ畑や温泉などに囲まれた穏やかな環境で少年時代を過ごす。ラジオやテレビが大好きな大人しい子どもだったという。中学を卒業し、高校では天文地質学部に所属。とりわけ地元の地形に強い興味を抱いた。

「山梨は糸魚川からフォッサマグナが通じていて、変化に富む地形が多いところです。当時は現地まで足を運んで、生きている地球を感じていました」

 高校時代の1966(昭和41)年、中国で文化大革命が起こると、隣にある不思議な国、中国に樋泉の興味が向かう。中国を知りたいという思いから、慶應義塾大学文学部に進学し、中国文学科を専攻。当時、日中間に国交はなく、中国語を専攻する学生はごく少数派だった。中国語辞典を持ち歩いていると、“中(くらいの判型の)国語辞典”と勘違いされることもあったという。文化大革命真っただ中の1971(昭和46)年、大学生の樋泉は中国に渡る。このときの体験が人生の転機になった。

「日本と中国、時差は1時間しかないが、生活や文化、思想など、すべてが異なっていました。『人間は、生まれる時代や民族などを自分では選択できない』ということにあらためて気付き、『自分が生きる時代の中で、自らの個性を活かして、何を成し遂げていけるかが、人の生き方として重要になる』ことを強く感じたのです」

 中国に渡ったことがきっかけで、アジアの友人との交流が生まれた。当時より現在まで関係が続いている友人も多く、今では友人の子どもの世代との交流もある。

 面白いことや興味のあることに、まっすぐに向かっていく。そのような青少年時代を過ごした樋泉が次に目を付けたのは北海道だった。

「このまま東京で就職するのは面白くない。当時、札幌冬季オリンピックの開催を控えていた北海道は、社会人のスタート地点としては面白いのではと思いました。テレビ局を選んだ理由は、報道などのソフトではなく、メディアというハードに関心があったからです」

 そこに計算や打算は無く、ただ本人の興味の赴くままに、樋泉は札幌冬季オリンピックが開催された1972(昭和47)年にHTBに入社。メディアという土俵で自身の個性を発揮していくことになる。

 

デジタル化の風を受けて前進するために

 入社後の樋泉は主に営業のフィールドでキャリアを重ねていく。いろいろな人と会い、関係を構築していく仕事はとても面白かった。1984(昭和59)年からは、営業として約10年にわたり東京支社に勤務。このとき、樋泉は新たな時代の到来を肌で感じる。衛星放送、デジタル放送、インターネット、モバイルなどの登場により、テレビを取り巻く環境は大きく変わろうとしていた。

「90年代前半、衛星放送がアジアで立ち上がると、香港に足しげく通い情報を収集しました。衛星放送が始まり、デジタル化により多チャンネル時代となるなど、放送インフラの変遷を目の当たりにして感じたのは、アジアのコンパス空間軸、時間軸、が明らかに短縮されることでした。近い将来、北海道の立ち位置が“日本の一地方”から、“アジアの一地域”にシフトする。そのような予兆の中で、広告主との関係や、視聴者や地域との関係の構造変化に対応するための準備を進める必要を感じていました」

 「地域社会の未来戦略に貢献できなければ存在意義がない」という社是を掲げた当時の経営者は、こうした樋泉の取り組みに理解を示し、支援してくれた。しかし、社内の反応は芳しくなく、樋泉達の提案に賛成したのは、わずか5人。200名近い社員から、反対という洗礼を受ける。この逆境に樋泉は悠然と立ち向かっていく。… 続きを読む

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樋泉 実(トイズミ ミノル)
1949年山梨県生まれ。慶応大学文学部中国文学科卒。1972年北海道テレビ放送入社。東京支社編成業務部長、メディア企画センター長を経て、2002年取締役、2011年代表取締役社長。2014年6月に日本民間放送連盟副会長に就任。 自社をアジアの中の地域メディアと位置付けて、海外発信やデータ放送など、先駆的な挑戦を続けている。現在はシンガポール、上海、ベトナム、カンボジアなどでレギュラー番組「LOVE HOKKAIDO」を放送中。2012年には地方局として初の動画配信サービス「HTB北海道onデマンド」も立ち上げ、北海道の価値向上に努めている。

北海道テレビ放送株式会社について
■ 事業内容番組企画・制作・宣伝、DVD制作、イベント企画・実施、出版物・グッズ販売・音楽事業、クロスメディア展開、ライブラリービジネス、インターネットサイト運営、番組販売
■ 設立年月1967年12月
■ 本社所在地北海道札幌市豊平区平岸4条13-10-17
■ 資本金7億5千万円
■ 従業員数184名 (2014年6月24日現在)
■ 業種情報・通信業
■ ホームページ

http://www.htb.co.jp/htb/index.html

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