2013.08.13 Tue

「働くことの幸せ」を信じ、障がい者雇用の道を拓く

日本理化学工業株式会社 取締役会長 大山 泰弘 氏

 日本理化学工業株式会社 取締役会長 大山 泰弘

障がい者雇用の背中を押した、ある教師と従業員たちの思い

 「“これからは共生社会だ”と、よく言われますよね。もちろんそれは良いことですが、人間の本当の幸せというのは人のために働いてこそ得られるものではないでしょうか。だから私は、誰もが働くことのできる社会、つまり『皆働社会』をつくりたいのです」──日本理化学工業の会長、大山 泰弘は、開口一番こう語った。

日本理化学工業株式会社 取締役会長 大山 泰弘 学校向けのチョーク製造を主とする同社の従業員は74人。そのうち70%を超える55人が知的障がい者である。IQ50以下の重度の知的障がいを抱える社員も26人いる。こうした障がい者を主力とする体制で同社は、国内チョーク業界においてシェア30%を超えるトップメーカーとなっているのだ。まだ社会で障がい者雇用が確立されていなかった時代から、障がい者が立派な労働力となることを実践によって証明し続けてきた同社は、内閣総理大臣賞(受賞は大山と従業員)や日本フィランソロピー大賞など、これまで数々の表彰を受けている。

 日本理化学工業の創立は1935年に遡る。大山の父で創業者の大山要蔵は、当時白墨を使用していた教師に肺結核が多いとの指摘があったことから、既にアメリカで普及していた炭酸カルシウムを原料とした衛生無害の「ダストレスチョーク」に着目。その国産化に初めて成功した同社は、日本のチョークメーカーとしては後発であったものの、国内屈指のメーカーとして成長していった。

 そんな同社が初めて知的障がい者を雇用したのは1960年のことだ。きっかけは、その前年に都内の養護学校の教師が大山のもとを訪ねて来たことだった。教師は、来年度卒業予定の生徒たちを「おたくで雇ってほしい」と訴えたのだ。しかし大山は、「門前払いのようなかたちでお断りした」という。

「その頃の私には、障がいや福祉についての知識などほとんどありませんでした。知的障がいを抱えた人間を採用するなどとんでもない、というのが率直な感想だったのです」

 だが、その教師は諦めず、幾度も同社の門をたたき、大山に「なんとかあの子たちを採用してほしい」と訴え続けた。聞けば、これまで何十社と断られ続け、もう後がないのだという。それでも首を縦に振らない大山を見た教師は、正社員としての採用を諦め、「せめて来年の卒業までに、一生に一度でいいから在校生に『働く』ということを経験させてあげられないか」と願い出た。教師の熱意にほだされた大山は、2週間だけという約束で実習を受け入れることにした。

日本理化学工業株式会社 取締役会長 大山 泰弘 ところが、実習生となった2人の少女たちは、大山をはじめ従業員の誰もが予想しなかったほど一生懸命に働いた。2週間、与えられたラベル貼りの作業を脇目もふらずにやり遂げたのである。そんな彼女たちの姿を、現場で一緒に働きながら見守り続けた従業員たちは、「自分たちが面倒をみるから、なんとか来年卒業したらあの子たちを雇ってあげよう」と大山の背中を押した。当時、養護学校を卒業した生徒は、15、6歳で福祉施設に入ることになる。東京にはまだ施設が少なく、親もとを離れ地方の施設で一人きりで一生を過ごすことも多かった。そうした事情も養護学校の教師から聞いていた大山は、2人の採用を決意したのだった。

 「正直に言って、障がい者を雇用することで社会に貢献しようとか、そういった意識はありませんでした。ただその子たちが可哀想だという“同情”が採用の理由でした」と、大山は当時の心境を打ち明ける。

 

「働くことこそ幸せにつながる」──本格的な障がい者雇用への道

 大山が積極的に多くの知的障がい者の雇用を目指すようになったのは、それから2、3年後のある僧侶との出会いからだ。法事でたまたま隣り合わせた禅寺の僧侶に、大山は日頃感じていた疑問を投げかけた。

「なぜ“あの子たち”は、毎日会社に来てあんなに真面目に仕事をするのでしょうか。施設で面倒をみてもらったほうが楽で幸せなはずなのに……」… 続きを読む

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大山 泰弘(オオヤマ ヤスヒロ)
1932年東京生まれ。日本理化学工業株式会社取締役会長。中央大学法学部卒業後、病身の父の後を継ぐべく同社に入社。1974年、社長に就任。2008年から現職。
製造ラインをほぼ100%知的障がい者のみで稼働できるよう、工程に様々な工夫を凝らしており、こうした経営が評価され、2009年、渋沢栄一賞を受賞。
著書に「働く幸せ」「利他のすすめ」(ともにWAVE出版)がある。

日本理化学工業株式会社について
■ 事業内容ダストレス事業部-文具、事務用品製造販売、ジョイント事業部-プラスチック成形加工
■ 設立年月昭和12年2月13日
■ 本社所在地神奈川県川崎市高津区久地2丁目15番10号
■ 資本金2,000万円
■ 従業員数76名(うち知的障がい者57名)平成25年5月現在
■ 業種製造業
■ ホームページ

http://www.rikagaku.co.jp/index.php

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