2013.08.06 Tue

理想の“共有力”で、有機農業ビジネスの道を開拓

株式会社大地を守る会 代表取締役社長 藤田 和芳 氏

株式会社大地を守る会 代表取締役社長 藤田 和芳

「ソーシャルビジネス」のパイオニアとして

 「ソーシャルビジネス」という言葉をご存知だろうか?──日本語では「社会的企業」と表記されるこの言葉は、社会的な課題をビジネスの手法で解決していくことを意味する。このソーシャルビジネスのパイオニアとして、2007年にニューズウィーク誌の「世界を変える社会起業家100人」にも選ばれているのが、大地を守る会の社長、藤田和芳だ。同社は「日本の第一次産業を守り育てること」、「人々の生命と健康を守ること」、「持続可能な社会を創造すること」をソーシャルビジネスの使命に掲げ事業を展開している。

株式会社大地を守る会 代表取締役社長 藤田 和芳 大地を守る会は、農薬や化学肥料を極力使用せずに栽培した有機農産物をはじめとする食材や生活雑貨などを首都圏の会員に届ける宅配を核に、それら商品のウェブストアや卸売、店舗販売、さらには自然住宅などのビジネスを手がける。「食の安全」や「自然との調和」といったフレーズは、今でこそ多くの企業や団体が口にしており、ともすればマーケティング用語とも捉えられがちだ。だが大地を守る会は、これらの言葉が世間に浸透していなかった時代から理念として明確に掲げて活動を続けてきているのである。

 

農業の“理想と現実”との間で

 藤田の活動のスタートは1975年にさかのぼるが、それは企業としてではなくNGOとしてであった。大学卒業後、出版社に勤務していた藤田は、ある週刊誌の記事を目にする。それは、農薬の危険性を農家に訴えている茨城県水戸市の開業医について書かれた記事だ。

 その時の心境を藤田はこう振り返る。「ちょうどその頃、有吉佐和子の小説『複合汚染』を読んで、農薬による土壌汚染の深刻さを知り、自分に何できることはないのかと考えあぐねていました。なので、その“先生”に直接会って話を聞こうと決めたのです」

 当時20代だった藤田はその週のうちに医師のもとへと駆けつけた。彼は、藤田の“思い”を聞くや快く受け入れ、彼を農家のもとへと連れて行く。

「先生は農業への関心がとても高く、農薬中毒と思われる患者も抱えていました。そして、農薬を使わない農業の必要性、土を健康にすることの意義について、近隣農家を熱心に説いて回っていたのです」

 しかし、農家側は医師の意見を簡単には受け入れなかった。なぜならば、もし無農薬でキャベツを育てた場合、農協による抜き取り検査で虫食いが2、3個でも見つかれば、トラック一杯分のキャベツがたったの2,000円程度になってしまうからだ。「そんなことしていてはとても食べていけない」と、農家が反対するのも無理のないことだった。

 農業の現実を目の当たりにした藤田だが、それでも希望は失わなかった。その理由の1つが、ほとんどの農家が自分たちで食べる野菜には農薬を一切使わず、多少の虫食いなど気にしていないという事実だ。野菜について知り尽くした彼らは、農薬の危険性を経験的に理解していたのである。ただ、生計のためやむなく使っていたに過ぎないのだ。

 「農家の人たちが食べるような安全な野菜であれば、農協でなくてもきっと買ってくれるはず」──そう確信した藤田は、農家の人々とともに知人が勤める生協を訪ねた。

 生協側は、藤田らの提案を好意的に聞いたが、最後に価格交渉の段となると一気にトーンダウンした。当時の無農薬農業では、どうしても1割から2割程度の作物に虫や病気の被害が出てしまう。その分を補うには、価格も1、2割上がってしまうのである。集団購入によるコストメリットを“売り”とするこの頃の生協には、とても受け入れられないことだ。他の生協もいくつかあたってみたものの、やはり価格がネックとなり交渉は成立しなかった。

 

団地の青空市で届けた“ふるさとの味”が評判に

 生協による販売ルートを閉ざされた藤田であったが、むしろ「無農薬野菜を売りたい」という気持ちはさらに強まり、1975年のとある週末、江東区大島4丁目団地の広場に直接野菜を持ち込んで青空市での販売を開始した。NGOとしての大地を守る会の発足だ。

株式会社大地を守る会 代表取締役社長 藤田 和芳「『無農薬だよー』と声をかけると、団地の主婦たちが興味を示し寄って来ました。実際に手にとって食べてもらうと、『人参が甘い』、『子どもの頃に食べたトマトの味だ』と好評だったのです。当時、団地の住人には地方からの上京者が多く、東京で食べる野菜をずっと美味しくないと感じていたのですね。岩手県の農家で生まれ育った私も同じ不満を抱いていましたから」

 藤田たちが届ける野菜は評判を呼び、別の団地からも次々と声がかかるようになる。… 続きを読む

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藤田 和芳(フジタ カズヨシ)

1947年岩手県生まれ。1975年に有機農業普及のためのNGO「大地を守る会」を立ち上げる。1977年には株式会社化し有機野菜の販売を手掛ける。現在、株式会社大地を守る会代表取締役社長、ソーシャルビジネス・ネットワーク代表理事など兼務。著書に『有機農業で世界を変える』(工作舎)ほかがある。

株式会社大地を守る会について
■ 事業内容 有機農産物や無添加食品をはじめとする安全な「食品」「衣料」「雑貨」などの開発、仕入れ、販売
■ 設立年月1977年11月8日
■ 本社所在地千葉県千葉市美浜区中瀬1-3 幕張テクノガーデンD棟21階
■ 資本金3億4,742万5千円
■ 従業員数199名(2013年3月末現在)
■ 業種小売業
■ ホームページ

http://www.daichi.or.jp/

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